第3話 鍵師、スカウトされる
良かった。
なんとかまとまったお金が手に入った。
ちょっと卑怯だったかもしれないけど、一応向こうも飲んだ条件だったし……。
揉めることはない。
――――って思ってる時期が、僕にもありました。
「てめぇ、さっきはよくも恥をかかせてくれたな」
現れたのは、先ほどの大男だ。
それだけじゃない。
後ろには、その仲間と思われる男が2人立っている。
野次馬の中で見かけた人たちだ。
おそらくこの2人が、周囲を扇動していたんだろう。
「な、なんですか? 僕はちゃんと勝って……」
「ああ。インチキしてな」
「魔法を使ってもいいと承諾したのはあなたの方ですよ」
「鍵魔法以外って言っただろうが!!」
鍵魔法だけしか使ってないんだけどな。
説明しても無駄か。
「心配するなよ。その袋を置いていけとは言わない。その代わり、そこに入ってる金額分の治療費になるまで殴りまくってやる。覚悟しろ」
ごきっ、ごきっと拳を鳴らし、僕に迫る。
1歩下がったが、後ろにも大男の仲間がいる。
場所は狭い路地。逃げ場はなかった。
まずい……。
このままじゃ――――。
「なるほど。力自慢を腕相撲で圧倒できても、荒事には慣れていないようだね、君は」
その声は僕でもなければ、大男やその仲間でもない。
そもそも凜と響いた声は、女性のものだった。
ひたひたと音を立て、大男の後ろから現れたのは、襤褸を纏った少女だ。
「あの時の――――」
「なんだてめぇは?」
僕が声を上げれば、大男は目を細めて、少女を睨んだ。
「なに……。そこにいる青年に、恩を返すためにやってきただけさ」
「恩?」
「心配しなくていい。君が知らなくていいことだよ」
少女は不敵に微笑む。
実に絵になる笑顔だったが、気が立ってる大男には通じなかった。
カッと顔を赤くすると、少女に飛びかかる。
だが、そこから少女の動きはあまりに鮮やかだった。
大男の巨椀をかいくぐると、側面に回って手刀を落とす。
くるっと眼球が逆上がりしたみたいに回ると、白目を剥いて気絶した。
あっという間の出来事に、僕は息を呑む。
それは後ろも同じだ。
「まだやる?」
また少女は不敵に笑った。
もうそれだけで十分だ。
仲間達が竦み上がる。
少女に指示され、大男を担いでそのまま立ち去った。
「あ、ありがとうございます」
英雄譚の序幕みたいな場面を目撃し、僕は少し困惑していた。
もっとも本当の英雄譚であれば、僕が助ける方なんだろうけど。
英雄的な活躍を見せた少女は、息を乱すことなく余裕といった様子で立っている。
僕の方を見て、微笑みかけると、銀髪を垂らして頭を下げた。
「いや、感謝するのは私の方だ。呪いを解いてくれてありがとう。名前を伺ってもいいかな?」
「ユーリ……。ユーリ・ヴァリ・キーデンスって言います」
「
「あ。いや、その――――」
僕は軽くここまでの経緯を話す。
なんで行きずりの少女に、いきなり身内話を聞かせたのかわからない。
多分、心のどこかで今ある状況を誰かに知ってもらいたいと思っていたのだろう。
「なるほど。それは大変だったな」
話を聞き終えた彼女からは、すっかり笑顔が消えていた。
まるで今にも泣きそうな目で、同情的な視線を僕に送る。
そんな表情を見ていると、なんだか話した僕の方が居たたまれなくなってきた。
「あなたのおかげで、当面暮らしていけそうです」
「そうか。それは良いことをした。だが、仕事の方は大丈夫なのか?」
僕は首を振った。
今もなお王都には、各地から人が集まってくる。
仕事の数に対して、人の数が多すぎるのだ。
そんな状況下で、宮廷からつまはじきにされた僕を雇う勤務先は少ないだろう。
なら、いっそ賃金は低くてもいいから地方に移り住むという選択も十分考え得る。
でも田舎暮らしに、家族が馴染むかどうかわからない。
だいたい、病弱の母さんが長距離の移動に耐えられるとは思えなかった。
「なあ、ユーリ。私から提案があるのだが、いいかな?」
「提案?」
「ああ。君、冒険者にならないか?」
「ぼ、冒険者?? 僕が?」
冒険者とは各階層を繋ぐダンジョンの発掘。
さらに第9層以降の未踏領域の調査を、ギルドの指示に応じて行う職業だ。
ギルドに登録すれば、誰にでもなれる。
一方、ダンジョンには魔物がいて、危険が多い。
だが、クエストに成功すれば莫大な報酬が待っていると聞く。
「名乗るのが遅れたが、私の名前はアストリア。アストリア・グーデルレイン。S級冒険者だ」
「え、S級冒険者!!」
6段階ある冒険者のランクの中で、最高級の冒険者。
そして未踏領域の第9層の手前――人外領域の第八層に到達した数少ない冒険者の証でもある。
「ユーリ……。君をスカウトしたい……」
私とともに、未踏領域第10層を目指さないか!?
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
引き続き更新していきます!
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