56. もしかして
「そういえばさ、新入生入ってくるらしいわよ」
第二回魔王討伐総合会議を終えたある日、リルが言い出した。彼女はミーハーだから、最近の話題にも目ざとい。
新入生、というのは、例のエリーズ達と同じ方法で入学してきた生徒のことだろう。
新一年生の入学式は、一ヶ月ほど前にとっくに終わっている。
「珍しいね」
エリーズが返すと、リルは興奮気味にふふん、と笑った。
「イケメンらしいわよ。アランと同じくらいの」
アランと同じくらい、ということは、確かにそうとう顔が良いんだろう。アランはこの国の顔面国宝だと言われているくらいなのだから。
「そうなんだ」
「そうなの。で、昼休み、見に行かない? 一年生の教室に」
目当てはそれだったらしい。けれどそこまで言われれば、エリーズもその一年生がどんな感じなのか少し気になる。
……いや、正直めちゃくちゃ気になる。女の性だ。
うんうん、と何度も頷いた。
*
昼休み、若干できている人だかりをかき分けて例の一年生の教室を覗くと、はたしてその少年は自分の椅子に座っていた。
漆黒の髪と瞳。確かに、異様な雰囲気を醸し出している。
教室の入り口から見ていると、不意に振り返ったその少年と目が合った。
背中がゾクリと凍る。
少女漫画とかだったら、ここで恋が始まるんだろうけど、エリーズにはそんな夢と希望に溢れたものは感じられなかった。婚約者いるし。
ただ、エリーズが抱いたのは、恐怖。
彼にそこはかとない強さと闇を感じ、ただただ恐怖した。
もしかしたらそれは、エリーズの剣士としての本能的なものであったのかもしれない。隣でキャッキャとはしゃぐリルには悪いが、彼には異形のものだという気持ち悪さしか感じられなくなってしまった。
(でもここまで強い人ってなかなかいないよね)
魔界を除いた世界では、エリーズより強い人物などそうそういない。
ということは……
(魔界の人物? でも、この前部下と戦ったときは、こんなに怖くなかった。だとしたら……)
目が合ったまま固まっていた少年が、不意ににこりと微笑んだ。あの部下と似た笑みを見て確信する。
(もしかして、魔王?)
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