23. たぶんこれは……

  久しぶりに目覚めし時計の音で目を覚ました。きっと昨日遊びに行ったので疲れていたんだろう。

  ぐっと伸びをした手を、そのままサイドテーブルへと向ける。掴んだ手紙をそのままベッドへと引き寄せた。


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  親愛なるエリーズ嬢へ


  昨日は、リルと上手くやれたようで良かった。楽しみまし


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「は? 何これ」


  エリーズは思わず呟いた。手紙は途中で終わっていて、しかも最後の方は書き殴った感じだった。


(手紙が適当になってきた、ていうよりこれは……途中で何かあった? それとも何か不具合が生じて、文字が飛んでしまったのだろうか。でもそれじゃ、こんなに雑にならないよね?)


  疑問で心が埋め尽くされる。

  もしかしたら、邪魔でも入って、最後まで書くことができなかったのかもしれない。

  けれど、エリーズに神様の事情など、分かるはずもなかった。

  だってエリーズは天界の事情なんざ知らなかった。当然と言えば当然かもしれない。

  そもそもこの世界に来るとき、トラ転したわけでもなければ、通り魔に刺されたわけでもないのだ。自分で魔法陣書いて飛び込んだのである。神様なんかに会えるはずがなかった。


  学校へ行く支度を済ませ、家を出る。馬車に乗っている間もずっと今日の手紙について考えていたが、答えは出なかった。


(何が問題って、今日のことについて何も書いてなかったから、今日どこかにバットエンドフラグがあったとしても、避けることが出来ないのよね)


  エリーズは溜め息をついた。


(それに昨日の女の人のことも気になるし。とりあえず昼休みに聞きに行くか、彼に)


  学校へは、案外早く着いた。


  午前中はずっと気をつけて過ごしていたが、特に何かフラグを踏んだりはしていないと思う。

  昼休みになって、彼を呼びに行こうと、エリーズは席を立った。

  場所はーーこの前の中庭のベンチでいいだろう。結局前も、誰も通らなかったし。


  「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」


  エリーズが前を歩く黒髪の少年を呼び止めると、彼はすごい勢いで振り返った。


「何?」


  彼にしては珍しく、目が据わっていて、エリーズはひっと、声をあげそうになった。元から切れ長の鋭い目ではあるのだが、血走っていて、異様な雰囲気を醸し出していたのだ。


「昼休みの間、ベンチまで来れる?」


「分かった」


  彼は渋々、といった様子で、答えた。


  ベンチへ早足で歩く彼の後ろを、必死で追う。どうやら相当機嫌が悪いようだ。ただ、彼にどうしても聞きたいことがあった。今日の授業の三時間目に思いついた、神様の手紙の真実について。この仮説を聞くチャンスは今しかない。というか、出来るだけ早く、この話は対処するべきだ。

  渦巻く考えを頭で纏めつつ、エリーズが彼に続いて、階段を一段、降りた瞬間。


  背中に重い衝撃を感じた。

 

  「え?」


  階段を滑り落ちていく体。目を見開いた、驚いたような彼の顔。背後で何やら叫んでいる女。


  差し伸べられた手を、掴もうとするも願いは虚しく。


「ベルナールさん!」


  焦りの滲んだ彼のーーレオンの声を聞くのを最後に、エリーズの目の前は、真っ暗になった。

 

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