21. 久しぶりに友達と

  お母様に許可をとってすぐ、リルに電話をかけた。この世界にはスマホ、なんて便利なものはないから、連絡手段は全部携帯だ。

  しかもそれらはもちろんインターネットに繋がったりするわけじゃないからーーだってパソコンもないのだーー本当に、ただ電話をかけるためだけのものなのだ。

  リルはすぐに電話に出てきた。彼女は寮に住んでいるので、親からの制約は受けていないし、宿題の提出日の前日以外は、ずっと暇らしい。

  まだ一年だしいつでも遊べる、ということらしかった。


「でもどこで遊ぶの?」


  どうやらリルは、エリーズが行ける場所がかなり限られていると思い込んでいるらしい。

  確かにエリーズの方が身分は上だが、王族でない限り、学校を卒業するまで、この世界では、生徒間に身分差はない。

  出会って最初の頃、ずっと敬語で話しかけてきていたリルも、それを知ってから、今ではタメで話してくれる。

  どうやら敬語はあまり得意ではないらしく、この方が楽だと言っていた。

  と言ってもエリーズはそこそこ有名な人間だから、下手に下町とかには行けないと思っているらしい。

  それにリルとはそこそこ仲がいいけど、別に特別仲がいい、というわけではないので、びっくりしたのだろう。まぁ、お互いそんなに仲のいい人はいないんだけど。


「別にどこでも大丈夫よ。ドレスとか着なければ、誰もパッと見で私って、分からないと思うの。それに、この髪色も、別に珍しくないし」


  そうなのだ。エリーズは内心自慢に思っているこの髪色も、別にこの世界では珍しくともなんともない。


「そう? じゃ、いつも私が買い物している街があるんだけど、そこにしない? ドレスは出来れば着て来て欲しくないのだけど」


「えぇ、分かってる。さすがにドレスは着ていかないわ。じゃ、どこ待ち合わせにする?」


「その街の近くにある駅でどう? ちなみに✕‬✕‬✕‬駅なんだけど」


「了解。その駅に一時ね」


「えぇ」


  しばらくの沈黙のあと、エリーズはぷつり、と電話を切った。自分から電話を切らないあたり、リルはまだエリーズに遠慮しているのだろう。


(さてと、用意しなきゃ)


  エリーズは部屋に備え付けてあるウォークインクローゼットの方へと、歩いていった。


  前世では幼い頃からずっと憧れていた光景に、エリーズはいつまで経っても慣れることが出来ず、クローゼットの中に入るといつも緊張する。

  手前の方にある大量のドレスを掻き分け、奥の方にあるワンピースをいくつか手に取った。

  そのまま鏡の前まで持っていき、いくつか合わせてみる。

  結局グレーを基調とした、襟のところにリボンのついているシックなワンピースを選んだ時、丁度ドアが開き、ミアが入ってきた。


「あら、今日はワンピースでお出掛けになられるんですか?」


「えぇ、そうなの」


  頷くと、ミアは嬉しそうに笑って、髪の毛を括ってくれた。


(この世界に来てから下町で遊ぶのなんて初めてだから、何だか新鮮な気持ち。前世ではよく行ったんだけどなぁ)


  エリーズは久しぶりの感覚に胸を踊らせながら、エリーズは手を振るミアに行ってきます、と笑って、家を出た。


 

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