13. 私この人に絶対勝てない

「あなたは……」


  目を見開くエリーズに、目の前に立つ黒髪の青年ーーレオン・カヴァリエは不思議そうな顔をした。

  彼はエリーズと同じようにルソワール王国四大名家、カヴァリエ家の出身だ。アランと仲が良く、連れ立って歩くのをよく見かける。

  得意分野は武術。王国の中で最大級の弓矢の大会で、過去に五回優勝している。

  彼もアラン同様イケメンではあるが、目付きが険しいため、女性にはあまりモテないーーという噂だ。


「何で男装なんかしてるんだ?」


  レオンが聞く。エリーズはその言葉に我に返り、その場で立ち上がった。


(何で気づかれたんだろ。このまま知らんぷりすべき?でもそっちの方が怪しいか。いや、でも……)


「何のことでしょう?」


  エリーズはきっぱりと答えた。結局自分でエリーズだと告白する勇気が出なかったのである。


(何だよ。怖すぎかよ。こちとら命かかってんだよ)


  次第にキャラがおかしくなってきた心の声に不安を抱きながらも、エリーズは努めて無表情を貫いた。

  前世で母親の料理が不味かったとき、習得した技である。


「いや、お前はエリーズ・ベルナールだろう?アランの婚約者の」


「いや、だから違うんですって。見間違いですって」


「でも、エリーズ・ベルナールなんだろう?」


「声も全然違うじゃないですか」


「エリーズ・ベルナール、そういえばさっき何をやっちまったんだ?」


  必死に弁明するが、全然話が噛み合わない。


(あれだろうか。黒髪イケメンで、天然で、真面目なやつだろうか。見た目に反して体育系なやつだろうか)


  これは、手強い……、とエリーズは内心頭を抱えた。世の中、本気で天然な人が一番強いかもしれない。


「いや、でも私はエリーズでは」


「エリーズ・ベルナール、そういえばさっきは何をやっちまったんだ?」


(ダメだ、たぶん全っ然話聞いてない。聞いててこれは強すぎる)


  心の中でのたまっていた何かが急に静かになった。たぶん今頃遠い目で、どっかの水平線辺りを見つめている。


「ああもういいです。私はエリーズ・ベルナールです」


  勢いのまま叫ぶ。ついでに女声に戻すと、耳がキン、となって痛かった。


(この人に私、勝てる気しない)


  エリーズは悟った。


「それで、何をやっちまったんだ?」






 やはり彼は、強かった。


 


 

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