石は吸収するもの

「ありはとほ」


噛み砕けないのであれば、飲み干すしかない。

ヒカリンからミネラルウォーターを受け取ったあいりさんが意を決してバイタルジュエルを飲み干した。


「んっ」


小さいとはいえそれなり大きさの宝石を飲み込むのは、相当に勇気がいる。


「どうですか?」

「ああ、どうにか飲めたよ」

「効果はありましたか?」

「確認してみる」


外から見る限り、あいりさんに特段変化はない。


「特にステータスに変化はないな」

「えっ!?」


どういう事だ?

まさかバイタルジュエルじゃなかった!?

もしかして普通の宝石だったのか?


「ミク」

「多分、バイタルジュエルだと思うけど……」


こんな時、鑑定スキルなんていう便利な物があればと考えてしまう。

ギルドで鑑定してから飲んだ方が良かったかな。

飲んでしまったからには今更だけど、これってどうなるんだ?

あいりさんの顔色が若干悪いようにも見える。


「あいりさん、大丈夫ですか?」

「あぁ……大丈夫……だ」


どう見ても大丈夫じゃなさそうだ。


「お前達は不便だな〜。あいり、石のひとつやふたつで大騒ぎするような事じゃないだろ〜。ほっといたら吸収されるって」

「は、はい。ルシェ様」


ルシェ、人間は放っておいても石を吸収するって事は無いんだ。

サーバントたちとは違うんだぞ。

ただ、ルシェの無責任な声にもあいりさんの気持ちは軽くなったのか、少し顔色が戻ってきた気がする。

ここで留まっていてもこれ以上する事は無さそうだし、あいりさんが落ち着いたら一度二十階層へ降りてみた方がよさそうだ。


「あいりさん、下に降りてみようと思うんですけど行けますか?」

「大丈夫だ。たかが石の一個や二個だからな」


やっぱり、ルシェの声でメンタルを持ち直したんだな。

たまにはルシェもいいところある。

多分、ルシェなりに気を使ったんだろう。

いや、本気で石が吸収されると思ってただけの可能性もあるか。


「なんだよ。じ〜っと見てきて。ははぁ〜ん、わたしの美貌に見惚れてたんだな?」

「いや、それはないから」

「はぁ〜? 照れなくてもいいんだぞ? 正直に言ってみろよ」

「いや、本当にないから」

「ふふん、素直じゃないな〜。まあいい。ほれ」


ルシェが的外れな事を言いながら手のひらを差し出してきた。


「わかってるよ」


今回頑張ってはくれたし、大奮発だ。


「ほら」


マジック腹巻から、魔核を取り出してルシェの手に乗せてやる。

今回は10個だ。


「海斗〜少ない〜」


10個で少ない……。

まあ、派手に魔法使ってたしな〜。


「じゃあ、もう10個な」

「もうちょっと〜〜」

「これで最後だからな」


追加で更に5個をルシェに渡す。

これで25個。

シルとティターニアにも必要だし、魔核がいくつあっても足りない。



お知らせ

本日24時よりHJ文庫モブから始まる探索英雄譚10電子版が解禁です。

紙は明日から店頭に並びます。

買って〜!

(心の叫びが漏れ出しました)

よろしくお願いします。

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