頑張れベルリア

ベルリアは俺よりも遥かにボディバランスに優れていて、移動中も全く滑る様子はなかった。

ただ、戦闘中の『ファントムステップ』。濡れてす滑りやすい金属の床を視覚で追えないほどの高速移動を繰り返せば、それはベルリアでも滑る。

氷の中のベルリアの顔……

戦闘が終われば写真で残しておきたいくらい間の抜けた顔をしている。

後悔先に立たずとはこのことだろう。

ベルリアは戦闘において、こんなキャラではなかったはずだが、ルシェに影響を受けてしまったのだろうか。

色々思うところはあるが、今はそれどころじゃない。

俺の目の前には青い狼がいる。

前回の戦闘では、虚をつかれ腕を凍らされてしまった相手だが、今回はそうはいかない。

アサシンのスイッチを入れて、青い狼の正面からズレる。

おそらく、青い狼の強さとこの距離感では効果が薄い。

ただ少しでも認識がズレてくれればそれでいい。

全身に神経を張り巡らせ、左右に細かく動き正面からズレる。

大きく動けばそれだけ青い狼の氷を避けることができる可能性は上がるが、ベルリアの二の舞いになる可能性がある。

俺は、ズラした認識と最小限の移動距離でスキルの直撃を避ける。

俺の避けたすぐ脇が凍りつく。

少しでも遅れればまた凍ってしまう。

敵のスキル発動を避けるため敵の顔に意識を集中し身体を反応させる。


『アイアンボール』


あいりさんがスキルを発動し、青い狼は鉄球を凍らせるべく俺から意識が逸れた。

その瞬間、左右に動いていた足を前へと踏み出す。

速度は出せない。

慎重に一歩づつ前へと足を動かして青い狼へと距離を詰める。

横で鉄球がゆっくりと凍りつくの見える。

周囲が遅くなり俺の時間が加速しているのがわかる。

アサシンの能力で加速した俺は青い狼に届く位置まで到達し、白麗剣を振るう。

白麗剣の先端が狼の顔を捉え、手元に硬質な抵抗感が伝わってくるが、そのまま振り切る。

まだ浅い。

更に踏み込み狼との距離を詰めバルザードの刃を敵の喉元へと下方から突き入れ、そのまま切断のイメージをのせて薙いだ。

少し間があってから狼の首が落ち、そのまま消滅した。

今度はあいりさんの助けを借りてではあるが完全にしとめることができた。

氷と溶岩の違いはあるが、一度対峙したことがあるからか青い狼の方が戦いやすかった気もする。

ミク達の戦いも無事に終了したようで、もう戦いの音は無くなっていた。


「あいりさん、ナイスタイミングでした」

「ああ、それにしても海斗は強くなったな」

「そうですか?」

「ああ、一連の動きが滑らかだった。さすがはシルバーランクといったところか。いずれ私もな」

「あいりさんならすぐにいけますよ」

「そうだといいが。それにしてもベルリアは滑ったんだな」

「まあ、この床でステップを踏めば滑りますよね」

「そうだな。滑るな」

「またルシェに頼むしかないですよね」

「ああ、それしかないだろう」


また全身を獄炎で炙られるのか。

ベルリア頑張れ。

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