階層主のおっ

殺虫剤のファイアブレスを床に蠢く蛇に向けて放ち続けるが、あまりに数が多すぎる。

どう考えても全てを焼き尽くすことはできない。

早々に全ての蛇を排除することを諦め、階層主までの道を切り開く。


「ティターニア、階層主はどこだ!?」

「たぶん……あっちです」


薄暗いせいで距離が離れるとよく見えないが、炎に映し出される周囲の感じから、以前戦ったミノタウロスのいた部屋ほどの広さはないように思える。

俺はティターニアが指し示す方へとファイアブレスを放ちながら進んでいく。


「海斗、さすがにこの数はやばいな。キリがないけどどう見てもコブラっぽいのも混じってる。確実に毒蛇がいるぞ。モンスターよりこっちに殺されそうだ」

「縁起でもないことを言うな! 急ぐぞ! 野村さんたちもいつまでももたない」


彼女たちには殺虫剤を二本ずつ渡しておいたので、上手く使えばしばらくの間は大丈夫だと思うが、それでもタイムリミットは確実に迫ってくる。

若干の焦りを感じながらも、ファイアブレスで道を切り拓きながら進む。


「マスター、モンスターです」


十メートルほど進んだところで前方に蛇とは違う相手がいることに気がついた。


「下半身が大蛇で上半身が人間。ラミア?」

「お、おい。海斗、む、胸が見えてる。あのモンスター胸が見えてる」


隼人、今はそこじゃないだろ。

たしかに前方に浮かび上がるモンスターの姿は上半身は裸の女性。

だけど、相手は階層主。たしかに胸は大きいし気にはなるが、今はそこじゃない。

下半身は大蛇のそれ。そして上半身は女性のもの。俺のそれほど詳しくない知識に照らし合わせるとこのモンスターはラミアか?

ラミア。俺でも知っているメジャーな存在。

以前倒したオルトロスなどと並び神話に出てくるようなモンスター。

最悪だ。ラミアの能力はよくわからないが、そんな神話級のモンスターが弱いはずがない。

オルトロスだってシルたちがいたから倒せたんだ。

湿度の高い部屋にも関わらず、俺の背中を冷たい汗が流れる。


「海斗、お、お、おっ……ぱい」


隼人には緊張感というものはないのか? さっきから胸のことしか口をついて出てこないようだ。


「俺はじめて見た。しかも顔が洋風の超美人なんだけど」


確かにギリシャ神話に出てくるだけあって、顔は彫りが深くかなりの美人であることは間違いないが、その容姿と相まって俺には恐怖の対象にしか映らない。


「あら、かわいい子たち。なにしにきたのかしら」


ねっとりとした声が前方から聞こえてきた。

俺の身体に緊張が走る。

ラミアがこちらに話しかけてきた。

階層主となるほどのモンスター。話ができても全く不思議ではないが、一瞬でわかる。

こいつはやばい。

ひとこと言葉を発しただけなのに、そのねっとりとした声とは裏腹に空間が強烈なプレッシャーに支配される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る