脱出行

「二十階ってなんで……私たち五層にいたんですよ」

「まあ、普通そう思うよな。だけど本当なんだ。それに俺も残りのサーバントとははぐれて喚び出せないから、隼人と三人で結構ギリギリだ」

「そうなんですか? じゃあこの先……」

「俺たち三人で戦うから、野村さんたちはついてくればいい。むしろ変に手を出すと危ないから」

「でも、それじゃあ」

「いや、大丈夫だ。野村さんのパーティは俺たちが無事に帰すから。安心してよ」

「海斗先輩……」


ここまできたら野村さんたちを置いていくという選択肢は最初からない。

無事にみんなで帰るためには俺たちだけで戦った方がいい。むしろ戦闘中に彼女たちにまで気を配れる自信はない。


「ねぇねぇ、なんか『黒い彗星』渋くない?」

「私も思った。顔は普通だけど雰囲気イケメンというか、行動と発言がイケメンすぎでしょ」

「うん超絶リア充に偽りなしね」

「こんな場面に颯爽と現れてあのセリフ。私ハートを射抜かれたかも」

「わかる〜私もキュンキュンしちゃった」


何やら野村さんのパーティメンバーが、野村さんの後ろでコソコソ話をしている。

この感じシルとルシェを彷彿とさせるが、やはり女の子はコソコソ話が好きなんだろうか。


「それじゃあ、早速行こうか。早く帰ろう」

「はい」


時間のこともあるので俺たちは先に進むことにした。

俺と隼人を先頭にして真ん中にティターニア、少し離れて野村さんのパーティがついてきている。


「やっぱり女の子のパーティは華があるな。俺は普段男だけだからこういうのイイな」

「隼人、調子にのって気を抜くと真面目に死ぬぞ」

「そこはわかってるって。三人の中で俺が一番弱いからな。必死にくらいついてやるさ」

「それならいいけどな」

「マスター……たぶん敵……です」


ティターニアが敵モンスターの出現を知らせてきた。


「野村さんたちはここでとどまって。戦闘中は周りに注意をはらって危なくなったら逃げて欲しいんだけど、野村さんたちだけで逃げても逆に危ないから、極力俺たちのことが確認できる位置にいて欲しい」

「わかりました」


「隼人、ティターニアいこう。ティターニアも遠慮はなしだ」

「はい」


俺たち三人は野村さんたちから離れて敵モンスターの方へと向かっていく。


「今度は二体か……」


当たり前だが、この階層のモンスターが単体で出現するとは限らない。

ただ一体でも、結構キツかったのに二体か。

グチったところで状況がなにか好転するわけでもないので敵に集中して倒すしかない。

速攻で倒すのが一番効率的だ。


「ティターニア『ウィンガル』を頼む」

「はい」


俺はティターニアにスキルをかけてもらってから、ナイトブリンガーの能力を発動し速攻をかける。

今度の敵は角の生えた大型のオオカミが二体だ。

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