安産祈願

「ティターニア『ウィンガル』を頼む!」

「かしこまり……ました。マスター頑張って……ください『ウィンガル』」


『ウィンガル』の効果で少しだけ身体の動きが軽くなる。

キョンシーのアクロバティックな動きにもなんとか対応できるようになるが、完全に間合いに入り込む事はできない。

更に集中を高め攻撃に転じるが、踏み込む瞬間にスイッチが入り、目の前のキョンシーの動きがゆっくりになる。

俺の動きも遅いままだが、キョンシーの動きははっきりと見えるので、動きに合わせてそのまま前へと踏み込む。

とった!

目の前には無防備に晒されたキョンシーの頭がある。

俺は左手に持ったおふだに全神経を集中してキョンシーのおでこに貼り付けることに成功した。

これで俺の勝ちだ!

もうキョンシーは動く事はない。そう思って気を緩めた瞬間キョンシーの蹴りが俺の胴体を捉えた。


「ぐはっ……なんで……」


ナイトブリンガーとスーツに守られているとはいえモンスターの一撃をもろにくらったのでめちゃくちゃ痛いし、息が詰まる。

慌ててキョンシーに目をやる。おふだは完全にキョンシーの顔に張り付いたままだが、なぜか普通に動いている。

どういう事だ? おふだで動けなくなるんじゃないのか?

目の前の事態に思考が混乱してしまう。


「海斗さん! フォローするのです『アイスサークル』」


キョンシーに向かってカオリンのスキルが発動するが、後方へと飛び退いて直撃を回避されてしまった。

俺とキョンシーの間に氷の柱が壁として出現する。

俺は氷の柱の影に入り、その場から一旦離脱する。


「スナッチ足止めするわよ」


ミクの指示を受けスナッチが俺と入れ替わりで飛び出して『かまいたち』を連発する。


「あいつ、おふだが効かない!」

「海斗のおふだってなんのおふだ?」

「安産祈願だ!」

「安産祈願……それがダメだったのかも。私のおふだを貸してあげるわ」

「ミクのおふだってたしか……」

「商売繁盛よ!」


安産祈願がダメだとしたら商売繁盛はいけるのか?


「ミク、やっぱり無理なんじゃ」

「大丈夫よ! パパの念がこもってるから。パパの商売への想いと情熱がキョンシーごときに効かないはずがないわ!」

「そう……」


根拠のない論説だが、ここまで言い切られると信じるしかなくなる。

確かにミクのパパなら相当なお金持ちのはずだ。

熱意がなければ事業で成功していないのも事実だろう。今はミクのパパの想いを信じるしかない!

俺はミクから商売繁盛のおふだを受け取り再びキョンシーへと向かう。

スナッチが足止めしてくれているので、今度は容易に懐に入る事ができた。

再び集中力を高め、キョンシーの動きを見極め、タイミングを計り商売繁盛のおふだを安産祈願のおふだに重ね貼りする。


「どうだ!」

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