第665話 約束のカフェ
「海斗、今日は表情が明るい気がするんだけど、上手くいったの?」
「ああ、上手くいったよ。カオリンは無事に回復したって連絡があったよ。だけどしばらくは、リハビリが必要だって」
「そう。でもよかったね」
「ああ、本当によかったよ」
「それじゃあ、もう時間は大丈夫なのかな」
「うん、しばらくは探索のペースも落とすと思うから、今までよりは時間ができると思うけど」
「それじゃあ約束……」
「約束……あ、ああ、もちろん覚えてるよ。カフェだよね。いつがいい?」
「じゃあ明日の放課後はどうかな?」
「ああ、それで大丈夫だよ。明日の放課後にしよう」
約束を忘れていたわけでは無いが、カオリンの事で頭がいっぱいになっていたので、すぐに思い浮かばず反応が遅れるところだった。
危なかった……
「今日のご主人様は、集中してるし、ずっとご機嫌ですね」
「ああ、あれは春香だな」
「でも、この前はうまくいっていないようでしたよ」
「馬鹿だからな。どうせいいように掌で踊らされているんだろ」
「そんな……ご主人様がかわいそうです」
「本人は仮初の幸せを噛み締めてるんだから、ここは見て見ぬふりをしてやるべきだろ。これがわたしたちの優しさだな」
「そうですね」
「あの……春香さんというのは?」
「ああ、海斗が一方的に好意を寄せてる相手だけど、ほとんど勘違いと妄想の出来事だから相手にするな」
「そう……なのですね。マスターの……」
今日は後方で、シルとルシェにティターニアもコソコソ話に加わっているが、どうせろくな話じゃないのはわかっているのでスルーしてスライムを狩っていく。
翌日の放課後、約束通り春香とカフェに向かう事にする。
「今日はどこのカフェに行くの? 前行ったところ?」
「ううん、この春に新しくオープンしたお店があるから、そこに行きたいと思ってるんだけど」
「歩いて行けるところ?」
「うん、駅前にできてるから歩いて行けるよ」
二人で歩いてお店へと向かう。
「放課後一緒に帰るのも久しぶりだね」
「うん……三年生になってからは初めてだね。時々カフェに行く約束してたのに……」
「カオリンのことがあったから仕方がないよ」
「うん……」
よく考えると二年の時に春香とは放課後に時々カフェ巡りに行く約束をしていたが、三年になってから一度も行けてなかった。
カオリンのことがあってダンジョンに集中していたとはいえ、せっかく春香と距離を縮める機会を自ら放棄しているといっても過言ではない。
今まで気に留めていなかったが、せっかくのお誘いを断るということは、現状維持ではなく後退を意味している。
そんな当たり前のことに今まで気がつかなかった。
ひとつのことに集中すると周りが見えにくくなってしまうきらいがあるのは自分でも認識はあるが、やってしまったかもしれない。
どんなに後悔したとしても過ぎ去った時間を巻き戻すことはできない。
俺にできることはこれからの時間をせいいっぱい過ごすことだけだ。
「春香! お茶を楽しもうな! ケーキも! パフェも頼む? 今日は俺が奢るから好きなだけ食べてよ!」
「う〜ん、パフェはどうかな? でも奢ってもらってばっかりで悪いよ」
「いやいや、最近時間が取れなかったお詫びだから。毎日ダンジョンに潜って稼いでたんだからこのぐらいは俺が払うよ」
「うん、わかったよ。じゃあご馳走になります」
話しているうちに新しいお店に着いたが、確かにおしゃれだ。ガラス張りで店内が丸見えだが、誰も気にしている様子はない。
しかも駅前にもかかわらず路上に椅子と机が並んでおり、おしゃれっぽい人達が座ってお茶をしている。
これが、オープンカフェか……
オープンすぎてどう考えても一人では無理だな。
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