第663話 ユグドラシルの発動
しばらくダンジョンの入り口で待っていると、メンバーが到着したが、カオリンもあいりさんに背負われてやってきた。
カオリンを見ると呼吸が荒く顔色も良くない。
「カオリン大丈夫?」
「大丈夫ではないです。でも海斗さんがくれた中級ポーションのおかげで、どうにか動けました」
「それじゃあ、すぐにダンジョンへ」
俺達はそのままダンジョンへと向かい、一階層のいつもの場所へと向かった。
カオリンも自分で歩く事は出来なかったが、ダンジョンに入った事でレベルによるステータスの補正を受けて幾分顔色が良くなっている。
本当はすぐにでも『ユグドラシル』を試してみたいが、流石に他の探索者の前で使うわけにはいかないので、他の探索者がいないであろう場所までは我慢する事にして先を急ぐ。
道中も少しでも早く進めるように俺とベルリアがスライムを倒しながら進んでいく。
見る限りいつもの場所は、日曜日にもかかわらず誰もいない。
「シル、周りに気配は無いか?」
「はい、誰の気配もありません」
念のためにシルにも確認を取るが、大丈夫のようだ。
「ティターニア、それじゃあ早速だけどカオリンに『ユグドラシル』を使ってくれ」
「わかり……ました。それではいきます。生命の源、万物の母、全ての世界を内包するその力を花びらに込めて与えたまえ。舞い吹雪け!『ユグドラシル』」
ティターニアがシルの聖句にも似た言葉を紡いで『ユグドラシル』を発動すると、カオリンを中心に薄いピンク色に輝く花吹雪のようなエフェクトが現れ、その光り輝く花びらがカオリンを包み込んでいく。
カオリンを包み込んだ花びらが密度を増し、強い光を放ち消えていった。
俺達はその場を支配する幻想的な、エフェクトに息を呑む。
「これで終わったのか? カオリン! どうだ?」
もしこれでも効果がなければ、もう手は無い。
「は……い。息が……」
「息がどうしたんだ。苦しいのか?」
カオリンの様子がおかしい。。やっぱりダメだったのか?
「いえ、息が吸いやすいような……」
「それって……」
「身体が弱っているので、はっきりとはわからないのですが」
「ベルリア! 回復を!」
「かしこまりました『ダークキュア』」
ベルリアによりカオリンの体力を回復させる。
「カオリン、どう?」
「はい……。さっきよりも動きやすいような」
そういってカオリンが自らの足でゆっくりと歩き始めた。
ベルリアのスキルで病床で落ちた筋力が戻るわけでは無いので、動きは少しぎこちなくおぼつかない感じはあるが、呼吸が乱れている様子はない。
治ったの……か?
「カオリン、私には良くなっているように見えるんだけど」
「ミクさん。普通に歩く事はできるみたいです。身体が少し突っ張る感じはあるのですが、今までの胸が苦しい感じは無くなっているのです」
「とにかく、病院で検査してもらった方がいいだろう。今の段階では私達に判断する事はできないから」
確かにあいりさんの言う通りだ。
俺達はそのまま病院へと引き返す事にしたが、帰りのダンジョンでカオリンはあいりさんの肩を借りながらも自らの足で歩いて地上へと戻った。
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