第645話 1日目の終わり

「海斗は五十五匹か。凄まじいな。すまない私は十匹だけだ」

「スライムに出会うのもある意味運ですからね」

「いや、そうじゃないんだ。実は途中まで殺虫剤を使わずにスライムを倒していたんだ」

「え? 三本じゃ足りなかったですか?」

「私の修練が足りなかった。どうしても探索者として武道家としてのプライドが邪魔をして、殺虫剤でスライムを倒すことに躊躇ってしまったんだ」

「あぁ……」

「途中で数が伸びていない事に気がついて、やむなく殺虫剤を使ってみたんだが、殺虫剤は思った以上にヤバいな」

「そうですか?」

「薙刀ではそれなりに時間をかけて攻撃しなければ消滅しないのに、殺虫剤だとあっという間に倒せてしまったよ。己の未熟さを痛感してしまったよ。明日からはありがたく殺虫剤をメインでいかせてもらう」


どうやら今日一日であいりさんにも殺虫剤ブレスの威力をわかってもらえたようだ。

ある意味同志が増えたようでなんとなく嬉しくなってしまう。


「ミクは殺虫剤使ったのか?」

「私も最初は『ライトニングスピア』とスピットファイアを使ってたんだけどMPが勿体無いから、すぐに殺虫剤に切り替えたわ。コスパもいいし、一階層で殺虫剤は必須ね」


どうやらミクも良さをわかってくれたようだ。これで更に同志が増えた。

あまり増えすぎると、俺の商売敵になっても困るが、パーティメンバーはその対象外だ。


「それじゃあ、今日で七十七個ですね。初日にしては結構いった方かも知れませんね。ラッキーセブンだし、あと二日です。頑張りましょう」

「ああ、明日は期待してくれ」

「私も頑張るわ」


俺は念のために帰り道、ドラッグストアで殺虫剤を十五本買い増しておいた。

これであと二日は十分いけるはずだ。

家に帰ると、今日のご飯はトンカツだった。


「カツカレーでもよかったんだけど、カレーばっかりもあれでしょ」


どうやらカレーばっかりという自覚はあるらしい。

俺としては一昨日春香の極上カレーを食べたばっかりだからカレーじゃなくてよかったけど、あれってなんだあれって。

最近、母親が、あれとかそれとか言う回数が増えてきて意味不明な会話が多くなってきた気がする。

ちょっと心配だから今度は人間ドックでもプレゼントしてみようかな。


「あ〜なんかこのトンカツ美味しい気がする。いつものより肉に甘みがある気がするんだけど」

「海斗にもわかる? これはね、薩摩の黒豚よ。普通ブタよりも美味しい高級ブランドブタよ」

「へ〜っ、そうなんだ。柔らかだし脂に甘みがある気がする」

「そうでしょ、そうでしょ。奮発した甲斐があったわ」

「なん急に奮発したんだよ。今日って何かあった?」

「だって、海斗が私達にプレゼントしてくれるほど稼ぐようになったし大学の学費も自分で出してくれるんでしょ。王華ならここから通えるし、海斗のために学資貯金しなくて良くなったから、その分ちょっと贅沢しようと思って」

「あぁ……」


確かに俺は稼げるようになったし、学費も自分で出すけど現金なものだな。

流石は母さん。

まあ、俺も美味しいものを食べられるからいいけど。

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