第626話 カオリンの想い
「かおりちゃん、今日は少し顔色が良いようね」
「はい、今日は少し呼吸が楽なの」
「外はいい天気ね〜。少し窓を開けてみるわね」
看護師さんがそう言って窓を開けてくれた。
あたたかい風が病室へと流れ込んできて気持ちがいい。
ずっと外に出ていないので、風が懐かしい感じさえしてしまうのです。
「ご飯は三割ぐらいかな〜」
「はい、そんなには食べれなくて……」
「大丈夫よ〜。点滴で栄養はきちんと取れてるからね。ご飯が食べられなくても
問題ないわ〜」
今日は少し体調がいいのだけれど、やっぱり食欲はないのです。
病気が悪化してからはずっとベットの上。
ダンジョンが懐かしい。
パーティメンバーのみんなとほんの少し前まで毎週末にダンジョンへと潜っていたのに、今はそれが遥か昔の事か夢のように感じてしまうのです。
『ファイアボルト』
病室で魔法を唱えてみても、もちろん使えるはずは無いのですが、ちょっと前まで間違いなく私は魔法を使ってモンスターを倒していたのです。
今の私ではダンジョンへ潜ったとしてもモンスターと戦う事はできません。
パーティメンバーのミクさんが時々連絡をくれますが、気を遣ってくれているのか私の身体についてはほとんど触れてきません。
ミクさんとダンジョンのことや日々の事をお話しをしていると自分が元気になったような気がしてくるのです。
特にメンバーのリーダーである海斗さんの話はとても楽しいのです。
海斗さん達が日々私のために頑張ってくれている事はわかっていますが、余り無理はしてほしくはありません。
特に海斗さんは重度のダンジョン中毒に罹患しているので、加減を知らないのです。
元々毎日のようにダンジョンに潜っていたので、今は更に悪化していると思うのです。
無理をして倒れてしまわないか心配になってしまいます。
ミクさんとあいりさんはしっかりしているので心配していませんが、海斗さんは……
私にとって海斗さんは頼りがいがあって、どこか抜けているお兄ちゃんのような存在ですが、ダンジョンのことに関してのみ異常にストイックなので本当に心配なのです。
もし過労で倒れるようなことがあれば、隣の病室に入院してもらうのもありかもしれません。
「かおりちゃん、それじゃあ点滴変えるわね」
「はい」
ああ……
自由に歩き回りたい。
家にも帰りたい。
でも本当はわかっているのです。
今回はもう家には戻れないという事を。
私を助けてくれるという海斗さんの言葉を信じてはいるのですが、本当はそれが難しいということを理解はできています。
でもこの一年は本当に楽しかった。
パーティのみんなとそしてシル様とルシェ様、おまけでベルリアくんと一緒にダンジョンで探索して敵を倒してレベルアップして、昔から身体の弱かった私には信じられないような体験でした。
もう少し時間はあると思っていたので、みんなともうちょっと一緒にダンジョンに潜りたかったなぁ……
残念だけど、だんだん内臓機能が低下していく私の病気は現代医学では治らないのです。
パパとママも今まで色々手を尽くしてくれたので、ここまで頑張ることができました。
可能性があるのはダンジョンでドロップされる霊薬。
でも上級ポーションでは一時的に効果はありましたがだめでした。
残るはその上に位置するソーマやエリクサー。
しかも試してみないと本当に効果があるかはわかりません。
霊薬の中にもランクがあるなら、霊薬であっても効果がないものもあるかもしれません。
それに私は霊薬なんか見たことがありません。
ニュースやネット記事で難病の人が完治したとか移植が必要だった人が回復したと見たことがあるだけなのです。
それほど貴重な霊薬を海斗さん達が手に入れられる確率は、ほぼゼロです。
特に海斗さんはアイテムドロップに関しては壊滅的に運が悪いのです。
Kー12でパーティを組んでからみんなアイテムドロップが減ったと言っていますが、きっと海斗さんのせいだと思うのです。
おみくじも末吉だって言っていたので、きっと奇跡は起こらないのです。
無理なのはわかっていますが、海斗さんの言葉が嬉しくて信じてみることにしたのです。
あぁ……
また以前のように春香さんの事で海斗さんをからかったり冗談言い合ったりしたいなぁ。
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