第599話 上書き
疲れた……
無事に罠を突破したが、一気に疲れた。
戦いとはまた違った疲れを感じるが、気力を振り絞って先に進む。
何度か既に戦った事のあるドラゴンが出現し戦闘となったが順調に攻略してこの日の探索を終了した。
「じゃあ、今日はここまでにしようか」
「そうね」
「そうしよう」
俺達は『ゲートキーパー』を使い一階層まで戻り、そのまま地上へと帰った。
地上に出ると夕暮れ時で辺りは日が落ちてきていた。
今日も1日頑張った。
今日で十七階層の半分にかなり近づいたと思う。明日には半分を超えて更に先に進みたい。
家に帰って先にシャワーを浴びるが、前回同様に頭は砂でジャリジャリで全身が埃っぽい感じだったので、念入りに洗い流すといつも以上にサッパリした感じがして気持ちよかった。
「母さん、今日の晩ご飯はなに?」
「今日はこれよ」
「カレー……うどん」
「そう、カレーばっかりも飽きるでしょ。だからカレーうどんにしてみたのよ」
母さん! 確かにカレーうどんはカレーライスとは違うしある意味新鮮ではるけど、カレーはカレーだ。
まあ食べたらおいしかったからいいけど……
それにしてもカレーばっかり。もしかして家の家計が苦しいのか?
ちょっとは俺も家にお金を入れた方がいいんだろうか?
俺はカレー好きだからいけているが、父さんも同じものを食べているはずなので大丈夫なんだろうか?
「母さん、父さんの仕事ってうまくいってるの?」
「もちろんよ〜。この前課長に上がったしお給料もちっと増えたし順調そのものよ。海斗にお小遣いもあげなくて良くなったしお母さん的には言う事ないわね」
どうも金銭的な問題ではないようなので、単純に母さんの手抜きという事なのだろう。
「それより、海斗これどう思う?」
「これってなに?」
「今着ている服よ。今日買ってきたの。来週の旅行に着て行こうと思って」
「ああ、いいんじゃない。春っぽいし。だけど……その服……」
母親が着ている服は水色のワンピースだ。
確かに春っぽいけど妙に若い子用の服に見える。
今母親が着ている服だが、最近どこかで同じようなワンピースを見た気がする。
どこで見たんだろう。
服には確かに見覚えがあるけどすぐに思い出せない。
う〜ん。
俺が見たとすればシチュエーションは限られる。
最近の俺の行動を思い出す。
女性の私服を見る機会は……もしかしてあの時か!
間違いない!
全くイメージは違うが、春香がこの前着ていたワンピースとそっくりだ。
というよりも、もしかして同じワンピースじゃないのか?
細部まで覚えているわけではないが、服だけを集中して見てみると記憶の中で春香の着ていたワンピースと重なる。
春香が着ると、妖精がマーメイドのように見えたが、母親が着ると……
そもそも春香は十八歳になったばかりだが、母親は完全に四十歳代だ。
確かに最近の四十代は若く見える人も多い。
春香のママは確かに年齢よりも若く見える。
もしかすると春香のワンピースを着てもそれなりに似合っているかもしれない。
だが、俺の母親は年相応に見えるので、春香と同じワンピースは……
自分が好意を寄せる女の子が着ていたのと同じ服を着て自分の母親が披露してくる。
俺は自分の母親が嫌いではない。
どちらかというと良好な関係性を築けているとは思う。
だが、偶然とはいえ春香と同じ服はやめて欲しかった。
あの時天使の衣のように見えた水色のワンピースが俺の脳内で、目の前で母親が着ているワンピースのイメージへと急速に書き換えられていく。
母親は何も悪くない。
悪くはないが、俺の神聖なものが汚されたような複雑な感覚に襲われてしまった。
母さん、もっと落ち着いた服の方がいいと思う。
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