第587話 ワームをしとめる
俺達は地面に潜ったワームに神経を集中して、すぐに動けるように待ち構える。
なんとなく地中を動いているような気配は感じるが、複数いるせいかはっきりとした場所の特定はできない。
微妙に伝わってくる足下の振動が緊張感を高める。
来る!
俺の目の前の地面の砂が盛り上がるのが見えた。
「来るぞ!」
その一点を凝視していると地中からワームの頭部が現れたが、その頭は俺の方に向いていた。
「うあぁあ〜!」
完全にワームと目があってしまった。
少し小さいとはいえドラゴンと視線を交わすのは恐怖でしかない。
攻撃よりも回避。
この状態で攻撃を外せば、確実に殺られる。
後方へ逃げたのでは追いつかれる。
俺は、全ての力を足に集中させ、横方向へと踏み出して、そのまま横っ飛びに右方向へと回避する。
回避するのとほぼ同時にワームが、俺の元いた場所へと襲いかかる。
ワームの牙が空を喰むとすぐに俺の方へと進路を向けようとしているのが見えた。
飛んだ事で体勢の崩れている俺の方が遅い。
まずい!
『神の雷撃』
『ヘルブレイド』
『ライトニングスピア』
俺が身の危険を感じた瞬間、シル達が俺を襲ってきたワームに向かって攻撃を発動し一体目のワームを消滅させる事に成功した。
これで残りは二体。
すぐに立ち上がり、再び地面の変化に集中するが、直後に今度は二体同時に姿を現し一体はベルリアにもう一体はシルに襲いかかった。
『ヘルブレイド』
ベルリアは黒い炎の刃を飛ばして、ワームの進行を妨げて勢いを削ぐ。
『ライトニングスピア』
「アイアンボール」
間髪おかずに、動きの止まったワームに向けてミクとあいりさんの攻撃が炸裂する。
攻撃をもろにくらったワームはフラフラしながら再び砂の中へと潜っていった。
「正面から向かってきて勝てると思っているのですか? 『神の雷撃』」
もう一体のワームもシルに襲いかかったが、シルが一切動じる事なく雷撃を放ち消滅させてしまった。
シルの前に姿を晒した時点であのワームの運命は決まっていたと言えるだろう。
残るは瀕死のワーム一体だが、姿はまだ見えない。
しばらく、地面に集中して見ていたが、一向に姿を現さない。
「ベルリア、どうだ? 現れそうか?」
「気配はあります」
またパーティメンバー全員で足下に集中する。
「ミク、どう思う?」
「これだけ現れないって事は、逃げた可能性もあるわね」
「やっぱりそうかな」
既に二分は経過しただろうか、一向に姿を現さないワームに対して俺達は疑念を持ちはじめていた。
もしかして、あのワームは俺達を恐れて逃げたんじゃないのか?
そもそもモンスターに撤退するという概念があるのかどうかもわからないが、今までにないパターンだ。
「やっぱり現れないな。本当に逃げたのかもしれない」
その後もしばらくその場で観察を続けだがやはりワームは現れなかった。
「このまま、とどまっていても仕方がないだろう。海斗どうする?」
「そうですね。魔核だけ拾って先に進みましょうか」
このままでは、いたずらに時間だけが過ぎ去っていくので、先に進む事を選択する。
「ベルリア、先頭を行ってくれ。殿は俺がつとめる」
俺達は注意を払いながらその場を去ることにして、警戒しながらも砂場をそのまま移動していく。
「マイロード! 背後です!」
やはり襲ってきたか。
ずっと潜んでいたのに、俺達がその場から離れるのを見計らって後方から攻撃を仕掛けてきた。
だが、今回の攻撃は十分予測できたものなので、慌てる事なく冷静に『ドラグナー』を構えてワームに向かって放つ。
蒼い弾丸は、狙い通りにワームの頭部を貫通して消滅させることに成功した。
それにしても、今までにないパターンで、明らかに敵のワームは策を講じて俺達に対して心理戦を挑んできた。
ワームにとって選択肢が限られる中での攻防だったので、今回は予測できたが、次も同じパターンとは限らないので十分に注意が必要だろう。
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