第583話 時を刻むプレゼント

「あ、春香、あの、これ、誕生日おめでとう」


かなり前から渡す事は決めていたのに実際にプレゼントを渡すタイミングで急に緊張してしまい、口からスムーズに言葉が出なかった。

脳内シミュレーションでは、もっとスマートに渡すつもりだったのに締まらない。


「うん、ありがとう。これ開けてもいいのかな」

「ああ、もちろんいいよ。気に入ってくれると良いんだけど……」


お店の人も似合うと言っていたので間違いは無いと思うが、これで気に入ってもらえないとキツいな。

春香は早速プレゼントのラッピングを開き始めた。

俺は既に時計を確認しているのに、時計が出てくるまで緊張してしまう。


「わぁ……時計」

「うん、いろいろ考えたんだけど、時計だったら学校でも使えるし、春香にずっと使ってもらえるかと思って」

「つけてみてもいいかな」

「白が春香に似合うと思って選んだんだけど」


春香が時計を取り出して早速腕につけてくれた。


「すごくかわいい。海斗ありがとう」

「うん、イメージ通り似合ってる」

「海斗、ずっと大事にするからね。今までの誕生日プレゼントの中で一番うれしいよ」

「よかった……」


時計は俺の脳内で想像した以上に春香に似合っている。

可愛さと煌びやかさが同居していて春香が一層引き立って見える。

春香も本気で喜んでくれているようなので、このプレゼントで正解だったようだ。


「ひとつ聞いてもいいかな? あのね……海斗、どうして時計にしたの?」

「え? さっき言ったけど時計だったら春香にずっとつけてもらえるかなと思って」

「そう……なんだ。それって……うん、今日からずっとつけるね。ありがとう!」


春香は嬉しそうに微笑んでくれ、なぜかちょっと目が潤んでいるようにも見え、それが店内のオレンジ色の照明を反射してキラキラして一層可愛く見える。

表情から喜んでもらえているのはわかるが、さすがに泣くほどのものではないので、俺の気のせいだろう。


「女の子に誕生日プレゼントなんか贈った事がないから、自信がなかったんだけど喜んでもらえてよかったよ」

「そうなんだね。今度は海斗の誕生日に私がお返しする番だね。私も男の子に誕生日プレゼントを渡すのは、初めてだよ」

「そ、そうなんだ。へ、へ〜。ありがとう」

「海斗、私は、まだプレゼントを渡してないから、ありがとうはまだ早いよ」

「あ、ああ、そうだね」


もちろん春香に誕生日プレゼントを渡す以上、来月の俺の誕生日に春香からのプレゼントを期待しなかったわけではないが、春香からはっきりと「プレゼントを期待して」と言われて、内心嬉しすぎて既に表情筋が溶けてなくなりそうだ。

しかも春香も異性に誕生日プレゼントを渡すのは初めてって、これは俺が彼氏になれる可能性は十分にあるんじゃないか?

少なくともプレゼントでは他の男たちに先んじることができる。

春香から誕生日プレゼントをもらえるなんてなんて幸せなんだ。

俺も母親以外の異性から誕生日プレゼントをもらうのは初めてなので初めて尽くしだ。

今から来月の俺の誕生日が楽しみで仕方がない。


「海斗、どうかしたの?」

「い、いや、なんでもない。なんでもないよ。じゃあ俺の誕生日も一緒にご飯でも食べようか」

「もし、海斗さえ良かったら、私の家でご飯を食べないかな?」

「春香の家で?」


なんで春香の家なんだ? 多分春香のパパとママもいるよな。正直気まずいので二人だけの方がいいんだけど

……


「そう。せっかくの誕生日だから私がご飯とケーキを作りたいなぁと思って」

「春香が作ってくれるの?」

「うん、どうかな?」

「もちろんいいです。是非お願いします。絶対それがいいと思います。うん、それがいい」

「よかった。じゃあ、腕によりをかけて作るから楽しみにしていてね」

「うん」


俺の誕生日に春香が手作りの料理で祝ってくれる。これは夢か?、夢なのか? いや間違いなく現実の出来事だよな。

やっぱり、今年の誕生日は俺史上最高に幸せな誕生日になりそうで今から待ちきれない。

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