第579話 サッカーは初心者
「そろそろ終わりにしますね。我が敵を穿て神槍ラジュネイト」
シルの一撃がドラゴンを消滅へと追いやった。
俺はあいりさんの背後から飛び出して金属竜へと斬りかかる。
バルザードの刃がドラゴンの肩口を抉るが、あいりさんの時と同様に後方へと避けられて致命傷には至らなかった。
「ガァアアア〜!」
「やばい! あいりさん!」
ドラゴンが咆哮と共に口を開いた。
このままでは、金属のニードルが襲ってくる。俺が蜂の巣になってしまう。
一瞬後方のあいりさんに目を向けるが、すでに退避行動を始めているのが見えた。
俺の方が前に出ているので俺の方が時間がない。
頭をフル回転させて避けるルートを策定するが、この至近距離から放射線状に放たれるニードルを超人的に避ける身体能力は俺にはない。
もはや一瞬たりとも無駄にはできない。
既に金属竜の口からニードルが放たれたようとしている。
刹那の瞬間に俺の思考が加速する。俺は、やった事もないサッカーのスライディングの要領でドラゴンの頭の下に潜り込むべく勢いよく踏み込んで滑り込んだが、実際には俺が思い描いたようにはいかなかった。
ダンジョンの床はピッチの芝や運動場の砂や土のようには滑ってくれず、思いの他、滑った瞬間の抵抗が大きかった。
しかも俺は特殊効果で軽いとはいえ上半身にナイトブリンガーを身につけているので、上半身にウエイトが偏っていた。
結果、俺が滑った距離は僅かで、下半身の支えを失った上半身がそのまま万有引力に従い、ただ地面に落下する事となってしまった。
「! イダっ……」
激しく背中と後頭部をダンジョンの床に打ち付ける事になったが、倒れた直後に俺の目の前を大量のニードルが通過していくのが見えた。
灯台下暗しで、さすがにドラゴンのニードルは至近距離の床までは攻撃範囲としていなかったようだ。
俺の思い描いた事からすると完全に失敗だが、運良く俺は最良の結果を生む事に成功したようだ。
そして完璧にではないがドラゴンの首元に潜り込んだ形となり、眼前にはドラゴンの無防備な喉元が晒されている。
俺は後頭部が痛むのを我慢してすぐに起き上がって、ドラゴンの喉元にバルザードを突き入れた。
ドラゴンの喉元や腹の部分は、表から見えている部分と違い金属の装甲に覆われていなかったので、あっさりとバルザードで突き通す事ができた。
俺はそのままバルザードを振り、ドラゴンの喉を掻っ切る事に成功した。
ドラゴンをしとめてからあいりさんを見ると、無事にニードルを避け切ったらしく無傷のようだったのでホッとした。
「お見事です」
ベルリアが俺の動きを見ていたようで、声をかけてきた。
「私ひとりが遅れを取るわけにはいきません。そろそろ決めさせてもらいます『ダブルアクセルブースト』」
ベルリアは炎の魔刀で『アクセルブースト』を使い斬りつけた直後に、今度は時間差で寸分違わず同じ場所に風の魔刀の一撃を浴びせかけ、金属竜の外装を突破してドラゴンを倒す事に成功した。
あの『ダブルアクセルブースト』の使い方は初めて見たが、さすがはベルリアだ。
これで残るは一体のみだが……
「ルシェ、こっちはみんな終わったぞ」
「うるさい! そんなのは見ればわかるんだよ。早ければいいってもんじゃないんだ! 質だよ質。クオリティが大事なんだよ!」
ルシェいったい何を言っているんだ。早ければいいってもんじゃないっていうのは理解できるがクオリティってなんだ。
苦し紛れすぎるだろう。
「それじゃあ、ルシェの方はクオリティが高いのか?」
「ああ、もちろんだ。時間をかけてじっくりだからな。質が違うんだ」
「質ね……」
「なんだよ、その目は。本当だからな、じっくり時間をかけて焼くといいんだからな!」
「ああ、わかったよ」
焼き芋じゃないんだからとは思ったが、これ以上はやめておこうと思う。
俺には幼女をいじめる趣味はないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます