第572話 アイスダンス
「ガァアアアア〜」
金属の外皮を持つ竜がルシェの獄炎をくらい悶えている。
間違いなくドラゴンにはダメージを蓄積はさせている。あの悶え様なら、おそらくこのままこちらを攻撃する事なく倒すこともできる気がするが、石のドラゴンであれだけ時間がかかったのだから金属はもっと時間がかかるだろう。
これは、燃え尽きるまで当分、放置するしかないな。
「シルもう一体の方を頼んだぞ。ベルリアとあいりさんであの氷の竜を倒しましょう」
氷を纏った竜だが、俺の魔氷剣は相性が悪そうなので、バルザードと『ドラグナー』で戦う。
俺はいつものようにあいりさんの後ろについて駆ける。
「アイアンボール」
あいりさんが鉄球を放つが、風竜のように受け流される事はなく見事に氷を纏う竜のど真ん中に命中する。
鉄球が命中して氷の外装にダメージを与えるが、残念ながら本体に大きなダメージを与えるまでは至っていないようだ。
俺が死角から飛び出して鉄球が命中した箇所を狙おうとするが、氷竜がこちらに向けてスキルを発動してきた。
「おぁあああ〜!」
氷竜のスキルは俺とあいりさんの周囲を凍らせる効果を持っていた。
俺自身はマントの効果と装備に守られて、凍りつくような事はなかったが、問題は走っている足下の地面が凍ってしまった事だ。
以前にも似たようなことがあった気もするが、走っている最中に突然足下の地面が凍ってしまうと当然止まれないだけではなく、デザートブーツの底も当然のようにグリップを失い盛大に転んで勢いよく氷竜に向かって滑っていく。
同じ状況のはずのあいりさんは、なぜか転ばずに体勢を保っている。
俺はあいりさんの横を滑りながら追い越して行くこととなったが、すれ違いざまにあいりさんと視線が合い、あいりさんのなんとも言えない表情が印象に残ったが、俺には時間的な余裕は無い。
このままいけば氷竜のところまで滑っていってしまう。
焦ってはいるが、慣性の法則から逃れる術はなく滑っているこの状況でできる事はあまりにも少ない。
数十秒間も滑っていたような感覚が残っているが実際には一秒程度だったかもしれない。
突然地面の氷が途切れて、強烈な抵抗感と共に止まってしまった。
氷竜のスキルの効果範囲外にまで到達してしまったらしいが、目の前には氷竜が控えていた。
目と鼻の先とは、この事だがとにかくまずい。
滑った影響ですぐに立ち上がることが出来なかったので、とにかく逃げなければという一心で転がってその場からの離脱を試みるが、氷竜が俺に向かって攻撃を加えようとしているのが、回転する俺の目に映った。
『ライトニングスピア』
ミクの声と同時に雷の槍が氷竜を射抜き俺への攻撃を食い止めてくれる。
『斬鉄撃』
あいりさんが間合いを詰めて氷竜へと攻撃をかけてくれる。
俺へと攻撃しようとしていた無防備な状態で雷の槍をくらった氷竜は完全にノーガードとなっており、あいりさんが放った一撃は見事に氷竜の首元へと食い込んだ。
あいりさんは、そのまま食い込んだ刃に力を込めて氷竜の首を落とした。
助かった……
完全にやられるタイミングだった。
ミクの助けがなければ、あのまま攻撃をくらっていた可能性が高い。
あの瞬間の俺は氷竜を相手にするには、あまりにも無防備な状態だった。
武器を構える事も防御態勢をとる時間もなかった。
今回の水竜に対して俺は何も出来なかったが、心強い仲間がいて俺は幸せ者だ。
俺のミスをメンバー二人が完全にカバーしてくれた。
例えレベルが高くなったとしても今のように文字通り足下をすくわれる事がある。突然走っている足下が氷で覆われたら、レベル22のステータスは完全に無効化され今回のような事態を招く。今後も初見のモンスターには特に注意して臨む必要がある。
お知らせ
HJ文庫モブから始まる探索英雄譚5の発売が9/1に正式決定しました!!
予約の始まったサイトもあるようなので是非買ってください!
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます