第567話 お人好しの英雄見習い

「探索者になって一年でレベル4なら悪くないと思うけど」

「先輩のレベルはいくつなんですか?」

「今はレベル22だけど」

「ほら、やっぱり全然ダメです。わたし才能がないんです」

「いや、俺よりも才能あるよ。俺なんか二年やってレベル3だったんだから」

「惨めになるからそんな嘘はやめてください」


嘘じゃないんだけどな〜。本当に二年やってレベル3にしかならなかったんだけど。だけど話しているうちに野村さんの悩みも大体わかってきた。


「それで、野村さんは、今一階層で行き詰まってるって事かな」

「そうです。レベルも上がらなくなってしまって、一階層から抜け出せないんです。今のまま無理してゴブリンと戦っても死んじゃうと思うんです。それでどうしようもなくて」

「ゴブリンは強いからな〜。ちなみに野村さんの使ってる武器は何?」

「サバイバルナイフとスライムにはハンマーです」

「あ〜それじゃあゴブリンには難しいと思う」

「え? でもわたしにはそれしかありません」

「新しい武器を買うお金は?」

「そんなものありません。ギリギリの生活なんです」


なんとなくだが、この子あんまりお金がないのか? 表情と言葉から切羽詰まっているような印象を受ける。

まあ、生活費を稼ごうとして探索者になる人も相当数いるので、この子がそうだったとしても驚きはない。


「本当はボウガンがあればいいんだけど」

「だからそんなものを買う余裕は家にはありません」


どうしたものだろうか。この子の事はよく知らないしこれ以上踏み込むのも違う気がするしな〜。ただこの子の思い詰めた顔を見るとこのまま放っておくのも気が引ける。


「野村さんは二階層に進んでお金を稼ぎたいんだよね」

「はい、そうです」

「それなんだけど俺の経験からすると二階層は、あんまり稼げないんだよな〜。それに三階層からはソロじゃ無理だと思う」

「そんな……」


確かにショックだよな〜。ゴブリンはあんなに強いのに魔核の大きさはスライムと大差ないもんな〜。それにシル達がいなければ俺も三階層は無理だったしな。


「稼げるようになるのは五階層をこえて十階層に近づいてからなんだよ。今は、ちょっと事情があってすぐには無理だけど、時間ができたら二階層までは連れて行ってあげてもいいけど」

「本当ですか?」

「ああ、この二〜三ヶ月ぐらいは無理だと思うけどその後なら構わないよ」

「お金はありませんよ」

「はは……別にお金が欲しいわけじゃないから」

「身体も無理ですよ」

「……野村さん。俺そんなに悪そうに見える?」

「見えません」

「うん、特に何か見返りが欲しいわけじゃないよ。ただ昔の俺に似てたから、ちょっと手伝おうかなと思っただけだよ」

「ありがとうございます。先輩やっぱり超絶リア充ですね」


そう言って野村さんは今日一番の笑顔を見せてくれた。まあちょっとお節介が過ぎる気がするけど、女の子が昔の俺と同じように苦しんでいるのを見たら少しだけ手伝いをしてあげたくなってしまった。

どんなに頑張っても自分だけの力では越えられない時がある。俺だってシルとルシェがいたから今の俺があるんだから。

誰かの助けを借りる事は決して恥ずかしい事じゃない。

野村さんは勇気を出して俺に助言を求めてきた。

幸い今の俺にはこの子をサポートしてあげられるだけの力がある。

今の俺は少しはあの時の春香のように振る舞うことができているだろうか?

あの時俺を救ってくれ俺が憧れた春香のような人間に少しは近づけているだろうか?

ただひとつはっきりと言っておきたい。野村さん、俺は間違っても超絶リア充ではないよ。

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