第563話 モブに女性心理はわからない
俺は二日連続で一階層に潜ってスライムを狩っている。何となくだが勇気が出ずカオリンとは土曜日以降連絡を取り合ってはいない。
「ご主人様、昨日のスライムを呼ぶ歌は歌わないのですか?」
「あ、ああ、今日はちょっと喉の調子が悪いからやめておくよ」
「風邪でもひかれたのでしょうか? 大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
本当は喉は全く痛くは無いが、昨日の歌は真顔で言われると恥ずかしくて歌えない。
それから二時間程スライムを倒して回り地上へ戻り、すぐにショッピングモールへと向かった。
目的は春香の誕生日プレゼントだが、何を買うかは決めていない。
決めていないというか正直何を買えばいいのか分からない。
誕生日プレゼントって普通何をあげるのだろう?
映画で女性の誕生日に主人公が薔薇の花束を渡したりとかは見た事があるが、俺があれを真似すると大変な事になるのは間違いない。
ただ、指輪もブレスレットも既にプレゼントしたしな〜。女の子って指輪を二つもらっても嬉しいものだろうか?
それとも色違いの同じゲーム機を二台もらった様なもので嬉しくは無いのだろうか?
小学校低学年の時はよかった。手作りの工作物や鉛筆とか消しゴムをプレゼントするので十分だったので、誰かの誕生日プレゼントに迷うという事は無かった。
あれから十年近く経過した今、俺には全くわからない。女の子が春香が喜んでくれるプレゼントがわからない。
以前読んだ事のあるラブコメで、石鹸とかタオルとかクリームっていうのがあったが、そもそも日用品をプレゼントにもらって嬉しいのだろうか?
俺は去年は誰からも誕生日プレゼントをもらっていないが、仮に石鹸やタオルをもらっても嬉しく無い気がする。
しかも俺が春香にそんなものを送った日には下心から送ったと思われそうで怖い。
真司と隼人に聞いても参考になるとは思えないのでとりあえず、モール内を見て回る。
見て回るうちに気になったのは、ちょっと高級なシャーペンだ。受験もあるのでいいかもしれないなとは思ったが、女の子である春香はこれをもらったら喜ぶだろうか?
春香の事だから喜んではくれると思うけど、女子高生への誕生日プレゼントとしてはどうなんだろうか?
一応頭の中でキープして他の店も見て回る。
「う〜ん、何がいいのかな。服は俺じゃ無理だしな〜。どうすればいいんだ……」
買いに来ればどうにかなるだろうと思っていたが俺が甘かった。
よく考えると今までのプレゼントは全部春香が選んだ様なものだった。俺には決定的にセンスが無い。おまけにアイデアも無い。
「う〜ん……」
頭を悩ませながら館内を歩いていると、前回指輪を買ったジュエリーショップの前まで来ていた。
店頭でボ〜ッと眺めていると前回もいた店員さんが声をかけてきた。
「いつもありがとうございます。本日はあの可愛い彼女さんはご一緒ではないんですか?」
どうやら、俺の事をしっかりと覚えてくれているらしい。
「今日は一人です。誕生日プレゼントを探してるんですけど何がいいかわからなくって」
「そうでしたか。彼女さんが羨ましいです。確か前回来られた時は指輪をお買い上げいただきましたよね」
「はい、そうです」
この人すごいな。俺が前回買った物まで覚えてるんだ。
「前回の指輪も非常にお似合いでしたし、また指輪はいかがでしょうか?」
「指輪ですか……同じ物を二つもらって嬉しい物ですかね」
「お客様、宝石をあしらった指輪は一つとして同じものはない唯一無二のものなのです。宝石は、それぞれが唯一の輝きを放つ特別なものです。たとえ幾つであっても、恋人から指輪を送られて嬉しくない女性はいません」
「そういうものですか」
「はい、そういうものです」
やはり、モブに過ぎない俺には女性心理を理解する事は難しいようだ。
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