第536話 感覚のズレ
「これからどうしようか。十七階層に行ってみる?」
「カオリンが一緒の方がいいと思うけど」
「そうだな初めての階層だしカオリン抜きはやめておいた方がいいだろう」
まあ、確かにその方がいい気がする。
「それじゃあみんなで一階層を周回しますか?」
「一階層? それはちょっと……」
「スライムでは、鍛錬にならないな」
やはりというか残念ながら彼女達には一階層の素晴らしさを理解してもらう事が難しい様だ。
「それじゃあ十六階層に行きましょうか。それならカオリンがいなくても大丈夫だと思うんですけど」
「そうしましょう」
「また鬼を狩れると思うと滾るな」
相変わらずあいりさんはおかしな事を言っているが、二人共賛成に様なので十六階に向かう事にした。
「あの〜。実は今日魔核の予備がなくてですね、現地調達しないといけないんす。『ドラグナー』が使えないのとシル達のご褒美も現地で調達する必要があるんで、余りお金にはならないと思います」
「そうね、先にある程度の魔核を集める必要があるわね」
「全く問題ない。シル様とルシェ様と共に鬼が倒せるだけで十分だ」
魔核が無いせいで『ドラグナー』も使えないし俺も退院後初めての探索なので少し不安もある。急がず慎重に進みたい。
「ご主人様、鬼が三体です」
「よし、シルとルシェは待機。魔核が無いからスキルを発動するのは禁止だ」
「おい! 海斗魔核がないってどういう事だ!」
「どういう事ってこの前ルシェ達が全部吸収しちゃったんだよ」
「なっ……。魔核無しでサーバントを召喚するってバカじゃないのか? このバカ!」
「今から集めるんだよ、ちょっと待ってろって」
歩いて行くとすぐに袴鬼と女鬼が現れた。
「女鬼はベルリアが頼む。俺とあいりさんは袴鬼をやりましょう」
ベルリアは新しい魔剣が嬉しいのか、異常にテンションが高い。
「すぐに刀の錆にしてやる! 魔剣を持った私の敵では無い。二刀の舞をじっくり味わえ!」
テンションが上がっているせいか、言ってる事も少しおかしい。
すぐに倒すと言っているくせにじっくり味わえと重ねている。
どう考えても矛盾していると思うが、俺以外のみんなはスルーしているので、まあ俺も突っ込むのは控えて戦闘に集中しよう。
魔核が無いのでバルザードの威力も半減しており、それをカバーするべく魔氷剣を発動させて袴鬼に向かって行き、即交戦状態に入る。
袴鬼が二刀を振るって俺を倒しに来たので、避ける為に魔氷剣を振るいながら後ろに下がるが、ボス部屋での戦いの様に鬼の二刀がゆっくりと通り過ぎる事も、俺だけが素早く動ける事も無く、通常の速度で全ての動作が流れていった。
「あれ?」
あの特別な感覚に慣れてしまっていた為に違和感が凄い。
これが当たり前の速度なのに、相手が速くなって逆に自分は遅くなった様な錯覚に陥る。
攻撃を避けた俺は相手の攻撃を避けると同時に踏み込んで倒しにかかるが、やはり思った以上に感覚と身体の実際の動きにズレがあり、魔氷剣を振るうタイミングが遅れてしまい鬼にダメージを与える事が出来なかった。
「海斗〜! 何をやってるんだ、空振ってるじゃ無いか! 鈍ってるのか!」
後方からルシェの叱咤激が聞こえるが、その通りかも知れない。俺は入院している間の数日で鈍ってしまったのかも知れないが、そんな事は目の前の鬼には関係の無い事なのでとにかく倒す事にだけ集中する。
再び攻撃に転じた鬼の二刀を意図的に大きめの動作で回避して、回避中にその後の攻撃をイメージして、刀を躱した瞬間にイメージした通りをトレースして身体を動かし攻撃をかける。
俺が振るった魔氷剣は鬼の身体を捉え、右腕を斬り落とした。
「ガアアアァアア!」
鬼が痛みに叫び声を上げる。
思ったよりも早く動けないのであれば、動くよりも先にイメージを固め、それをトレースする事で動作の動き出しを早める。
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