第532話 中級の効果

入院三日目の朝を迎えた。

二本の低級ポーションのおかげもあり少し身体を起こせるようにはなっているが、まだ歩けそうにはない。

そして昨日と同じくオムツ交換の時間をなんとか乗り切ったがやはり看護師さんには感謝しかない。

スマホを触る事も難しく、本当に何も出来ないので昼過ぎまで回復に努めてひたすら寝て過ごしたが十五時半頃にミクがやってきてくれた。


「海斗! まだダメみたいね」

「まあ、それでも大分良くなったよ」

「そう、じゃあはいこれ」


ミクが瓶に入った液体を渡してくれるが、今までに見たことの無い色だ。


「ミク……まさか、これって」

「もちろん、中級ポーションよ」

「低級じゃ無理みたいだから中級を買って来てあげたわよ」

「…………これ五十万円」

「そうね。後で精算するから」


これが五十万円のポーション。

確かに低級では治りきりはしなかったが大分良くなってきていたのでもう一本飲めばなんとかなったかもしれないのに、ここで中級ポーションか。

確かに一昨日そんな話はしていたし、ミクが完全な善意で買ってきてくれたのも分かる。

だが……

五十万円か。今回のボス戦で魔剣を三本も貰えたので価値としては大幅にプラスだが現金的には魔戦斧次第だが微妙だ。

今回使い切ったポーション類も買い直さなければいけないのに現金が……


「ミク……ありがとう。飲ませてもらっていいかな」

「はい、それじゃあ」


ミクに口まで運んでもらい初めての中級ポーションを飲み干した。

確かに低級ポーションとは味が違う。

低級ポーションも、マジックポーションのようには不味くは無いが、中級ポーションはおいしい。

飲み口というのだろうか、まろやかな味わいで喉ごしがスッキリしている。

飲み干すとすぐに効果を発揮して、さっきまでほとんど動かなかった身体が痛み無く動かせる。


「ミク、動けるよ」

「やっぱり中級ポーションってすごいわね。それにしても今回は重症だったわね。まさか低級ポーション二本と中級ポーション一本が必要になるとは思わなかったわ」

「今回は色々と助かったよ。ありがとう」

「それじゃあ、明日からは学校に行けそうね」

「ああ、ミクのおかげだよ」

「春香もでしょ」

「それはもちろん」


しばらくすると春香も病室に来てくれた。


「海斗、良くなったんだね。よかった」

「さっきまでほとんど動けなかったんだけど、ミクが中級ポーションを買って来てくれて飲んだら動けるようになったんだ」

「中級ポーションってすごいんだね。副作用とか無いのかな」


春香、怖い事言うな。副作用って俺も少し気にはなってたんだ。

大丈夫……だよな。


「ミク、副作用ってあるの?」

「私も中級は飲んだ事ないからわからないわ。多分大丈夫じゃない?」

「……」


飲んでしまったので今更どうしようもない。まあ普通に販売されてるんだから死ぬような事は無いだろうし、多分大丈夫だろう。


「今日はご飯一人で大丈夫そうだね」

「え? あ、ああ、まあ、多分……」


治ってしまったせいで春香に食べさせてもらう事が出来なくなってしまった。

しまった……

ご飯を食べてからポーションを飲めばよかった。

やってしまった。

あ〜、そこまで頭が回って無かった。春香からご飯を食べさせてもらうという人生のビッグイベントが……

その後すぐにご飯が出て来て自分で食べてみたが、昨日までの三つ星を超える味が今日は全く美味しく無かった。

病院食なのでとにかく味が薄く、ボリュームが無い。

昨日あれほどまでに輝いて見えた病院食が今は辛い。


「どうしたの? 食欲がないの?」

「食欲はあるんだけど……」


ご飯だけじゃ無くて、春香がお見舞いに来てくれるのは今日が最後か。

本当に残念だけどいつまでも入院しているわけにはいかないので明日の朝一番に

退院の手続きをして学校に行こうと思う。


「ミクも春香も本当にありがとう。おかげで元気になったよ。明日から学校も行けそうだから。ミクもまたダンジョンでよろしく」

「まあダンジョンの前にギルドで売却が先ね」

「ああ、分かってる」


俺は売却したお金でポーションの代金と無くなった装備を買い直す必要がある。

少しは残ると良いな。

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