第523話 16階層攻略

虎熊童子と熊童子を倒したシルとルシェが残りの鬼の掃討に参加しているが流石に二人共疲労の色が見える。

唯一元気に動いているのはスナッチぐらいだが、もう鬼も残るは数体なので問題なく倒せると思う。


「あ〜、疲れたな〜。今までの戦いの中でも上位に来るぐらい厳しかったな。これ普通のパーティじゃ無理だったんじゃ無いか? 完全に俺達仕様な気がする」

「海斗、気を抜くのは早いわよ。まだ終わって無いんだから」

「そうは言うけど、俺にはもう何も出来ないし、見てるしかないから。今攻撃をくらったら俺死ぬよ」

「そうなったら私達が守ってあげるわよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「何それ?」

「いや、持つべきは優しいパーティメンバーだなと思って」


ああ、やっぱり俺は恵まれているな。この追い詰められた状況でも俺の事を思いやってくれるメンバーがいるとは最高だ。


「海斗さん、鬼が……」


カオリンの声で顔を上げるとミクと会話を交わしたのが悪かったのか、気取られたようで端で休んでいた俺に向かって鬼が一体近寄って来ていた。

完全に弱った俺をしとめにきているが、足が動かない。


「ミク……」

「海斗……MPが足りない」


嘘だろ……

スピットファイアを構えてトリガーを引いているがミクのMPではスピットファイアを打ち出す事ができないようだ。

もう手は無い……のか?

このままでは残りのメンバーもやばい。

俺に残されているのはマジックシザー。

無いよりはマシなので急いで取り出して構えるが、これで戦えるとは思えない。

後は殺虫剤。まさか殺虫剤で鬼が死ぬとは思えない。至近で火をつけてファイアブレスにすればなんとかなるか?

いやでも、しとめるまでは無理だ。

残る俺の装備は……

これか、これしかないか。以前購入した際の最後の一個。

でもこれ鬼に効くのか?

でも、今はこれしかない。だが今の俺では無理だ。


「ミク、これを頼む」

「海斗、これは?」

「これは最臭兵器シュールストラーダだ。今の俺ではあそこまで届かない。ミク! 蓋を開けて鬼に向かって投げつけてくれ!」

「これ本当に大丈夫なの?」

「吹きこぼれに気をつければ大丈夫だ」

「……分かったわ」


ミクは俺から受け取ったシュールストラーダの缶の蓋を開けて、どうしても興味があったのか中身を覗き見てしまっていた。


「………っうぇっ」

「ミク息を止めて投げろ!」


ミクは涙目になりながらも前方の鬼に向かってシュールストラーダの缶を投げつけた。

射撃の腕は一級品のミクだが、シュールストラーダを投げる腕も一級品だったようで、投げつけた缶はきれいな弧を描きながら鬼の顔に直撃し内容物を撒き散らかした。

その瞬間こちらにまで異臭が漂ってきたが、咄嗟に鼻を腕で覆い息を止めた。


「ァァァアアアアア〜!」


鬼からは聞いた事のない声が発せられ、その場で悶えているようなので、シュールストラーダは見事に鬼に対しても効果を発揮してくれたようだ。

これで時間は稼げたが止めをさす手段が無い。


「ミク、ここからどうする?」

「ぅう……。スナッチ『フラッシュボム』よ」


ミクにとって最終手段とも言うべき『フラッシュボム』をスナッチに指示をする。

スナッチが戦線を離脱して一目散にこちらに向かってかけて来て『フラッシュボム』を発動した。

光の弾と化したスナッチがシュールストラーダで悶えていた鬼を直撃して、そのまま消滅させる事に成功した。

流石にスナッチにもダメージが大きかったようで、スキルを発動後ヨロヨロと歩いているのが見える。

これであと動けるのは俺のサーバント三体だけだが、鬼の残りもあと3体まで減っていた。

終戦はもう、すぐそこまで来ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る