第520話 瓦解

「すまない。海斗……もう腕に力が……」


あいりさんが薙刀を手から落としてしまった。

度重なる斬撃で遂に薙刀を持つ握力が無くなってしまった様だ。

既にポーションも何本か飲んでいたはずなので完全に限界を迎えたのだろう。


「あいりさん! ルシェの後ろに下がって!」


あいりさんに下がってもらい、俺とシル、ベルリアで鬼の一団を押し返す。

鬼の数は減っているものの、四人で対応していたところが三人にへってしまったので、突然負担が三割増してしまった。

残念ながら剣を持たない俺では複数を同時に相手することは出来ないので、挟まれ無い様に注意しながら立ち回るしか無い。


「カオリン! 『アースウェイブ』を周りに張ってくれ」


鬼の動きを止めるためでは無く、少しでも敵からの攻撃範囲を狭める為にカオリンに『アースウェイブ』を周囲に発動してもらう。

これで効果が続く限り侵入経路は限定できるはずだ。

もう一度ルシールを出してもらうか?

ルシールを出せば、盛り返せるはずだ。


「シル! ルシールをもう一度頼む」

「ご主人様! ルシールを喚んでしまうとMPが切れます」


……そこまでか。ずっと戦い続けているのでシルのMPが切れても不思議では無いが、どうする。

こうしている間にも鬼は押し寄せて来ている。


「シル、やってくれ! ルシールを喚んでくれ!」

「かしこまりました。我が忠実なる眷属よここに顕現せよ『楽園の泉』


再び戦場へとルシールを喚び戻し、戦況を立て直す。


「ルシール頼んだ。お前だけが頼りなんだ。とにかく鬼の数を減らしてくれ!」

「お任せください。私の出来る限り倒します。ほら、海斗様のお望みです。お還りください『エレメンタルブラスト』」


迫って来ていた鬼が空中へと巻き上がり、少しの時間だが攻撃の手が止んだ。


「シル、今のうちにこれを」


このタイミングを逃さずにスライムの魔核をシルに差し出した。


「こんなに良いのでしょうか?」

「いや、今しかない。これで少しでも回復をしてくれ」


これだけ魔核を摂取すれば、シルの体力もMPもかなり回復するはずだ。


「ああああ〜! ずるい! ずるい! シルだけずるい!」


ここでそれを言うのか……ルシェ。

なんで、戦闘中にこっちを見てるんだよ。


「騒がなくてもルシェの分もあるって」

「じゃあ今すぐくれ。すぐにくれ。私もMPが切れる」


今すぐって言われても、この状況でどうやって渡すんだよ。


「とりあえずこれがシルの分な。ルシェは終わったらな」

「無理! 無理! 無理! ミク今すぐ海斗から受け取って来てくれ」

「はいルシェ様、わかりました」


我慢する事を知らないルシェはミクをこちらに寄越して来たので、素早く残る魔核を渡しておいた。

そしてこの時点で気がついてしまった。

さっきベルリアに渡した低級ポーションって魔核でよかった……

やってしまった。

ベルリアが突然MPが切れたと言い出すからテンパってポーションを渡してしまったが低級ポーションを一本無駄にしてしまった。

この切迫した状況での低級ポーション一本分の価値は計り知れない。

俺はどこか抜けている。状況が切迫すればするほどミスを犯してしまう。

そんな自分にショックを受けてしまうが、ルシールの稼いでくれた時間が終わってしまう前に戦闘態勢を整え直すが、残念ながら俺のMPもそろそろ底を尽きそうだ。


「シル! 俺が戦える時間もそれ程残ってない! ルシールと一緒に一気に行くぞ!」


シルのMPは今のでかなり回復しているはず。ルシールの召喚もまた使用できるはずだ。このまま四人の間に殲滅するしかない。

俺は最後の気力を振り絞り残る鬼に向かって行く。

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