第521話 力尽きる

俺は直接的なダメージはほとんどくらっていない。

掠った程度で明確なダメージは負っていないのでHPはまだ大丈夫だ。

だけど、身体が悲鳴を上げて動かなくなって来た。もう足が動かない……

そしてMPが尽きてしまったので覚悟を決めて最後のマジックポーションを飲み切る。


「ガハァ……」


戦闘への集中力を完全に削いでしまうまずさだ。

MPが回復するが、もう近接戦闘は無理なので目に入って来る鬼に向かってドラグナーを連発する。

もうMPが尽きるまで打ち尽くすしか術が無い。

前方ではカオリンの放った『ファイアボルト』が炸裂しているのも見える。

みんな分かっている。

ここが勝負所だ。

これ以上は俺達は凌ぎ切れない。ここで完全に押し切ってしまうしかない。

あいりさんの『アイアンボール』も放たれ、完全に弾幕が出来上がっているが、MPはどんどん剥られているので猶予はない。


「ルシェ! 前に出てくれ! 俺が代わる」


ルシェに守りを捨てて完全に攻撃に参加してもらう。

敵の数も減って来ているし、俺と他のメンバーでこの場は凌ぐ。


「あ〜さっさと死ね! あの奥にいるのがボスか? あいつら倒せば終わりか?」


ルシェの声に反応して奥を見ると確かに、見た事のない鬼が2体立っている。

今まで鬼の群れで奥の状況まで確認出来なかったが、さすがに数が減って来た今なら確認出来る。

明らかに他の鬼とは一線を画す威圧感と風貌。

一体は、青もう一体は白い肌をしており、2体とも猛獣を思わすような、鋭い眼光と体躯をしている。


「あれは……まさか無……いや、虎熊童子と熊童子か?」

「あいりさん、あいつらの事知ってるんですか?」

「確証は無いが、あの風貌、青と白。大江山四天王の二鬼だ」

「大江山ってあいりさんの家の近くなんですか?」

「何を馬鹿な事を! 大江山は今の京都だ」

「京都の鬼なんですか?」

「ああ、それなりにメジャーな鬼だ。何しろ四天王だからな」


鬼だけど王なんだな。それにしてもあいりさん、鬼に詳しすぎだろ。

いずれにしても、俺達メンバーはいずれ援護も出来なくなる。

であれば今しかない。


「シル、ルシェ、あの二体を倒せ! ベルリア、ルシールと周りの鬼を蹴散らせ。ミク、スナッチを前に出してくれ」


ここに全てを注ぎ込む。

これを凌がれたら、サーバントはともかく俺達はもう後がない。

俺の指示を受けてスナッチが前面に踊り出し『ヘッジホッグ』をかける。

俺達も残るMPを投入して遠距離攻撃をかける。

シルとルシェは、周囲を突破して虎熊童子と熊童子の前にたどり着いたようだ。

後は二人に託すしかない。

シルとルシェを前に虎熊童子と熊童子も動き出した。

それぞれ、斧と刀を持っているが振るうとそれぞれ、虎と龍を思わせる衝撃波のようなものが放出されている。

あれはスキルか?

二人共上手く避けてはいるようだが強敵なのは間違い無さそうだ。

俺達も自分達の役目を果たす。


「カオリン! 融合魔法をあそこに放って!」


ルシールが消えてしまう前に全ての鬼を掃討したい。


「はい、わかったのです」


カオリンが融合魔法で鬼1体を消滅に追いやり、こんな状況にもかかわらずベルリアは念願のバルザードを振るえてテンションが上がりまくったのか、いつになく戦場で輝いている。

一方俺は、『ドラグナー』を連発してMPが尽きてこれ以上は『ドラグナー』を放つ事が出来無くなってしまった。

これで俺はもう全て出し尽くした……

俺にはもう出来る事は何もない。

後はみんなに託すしかない。


「おい! 海斗! まだHPは残ってるんだろう。 絞り出せ!」


俺が燃え尽きようとしていた時、ルシェの容赦のない声が聞こえて来た。

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