第516話 目覚めの炎

「みんな気を付けろ! 鬼ジジイがヤバイ! 気絶のスキルを使って来るぞ。相対したら速攻で倒すんだ」


鬼ジジイは一体だけじゃ無い。次くらったらやばい。


「マイロードお任せください! 私が蹴散らしてみせます」


いや、ベルリアお前はとにかく目の前の敵を倒して気絶しないようにだけ集中してくれ!


「ルシェも鬼ジジイを見たら速攻で倒してくれ!」

「ババアもジジイも厄介だな。さっさとくたばってろ!」


目の前の鬼の後方には鬼ジジイの一団が見て取れる。

やばい、あいつらが集団でスキルを発動したら防ぐ術が無い。


「シル、ルシェ! あいつらを頼んだ〜ぁあ!」


シルとルシェにもすぐに意図は伝わり、目の前の敵を倒した後、即攻撃を叩き込んでくれたが、まだ残っている。

俺は目の前の鬼と戦っているために手を出せないが、時間的余裕も無い。

『ドラグナー』を連射して目の前の鬼を退け、首を跳ねるが、その瞬間、身体の痛みと同時に気持ち悪い虚脱感に襲われた。

これはMP切れの症状だ。

俺は迷わずマジック腹巻から低級ポーションを取り出し一気に飲み干した。

身体から痛みが抜けていく。低級ポーションもマジックポーション程では無いが、MPが回復するのでこれでまだ戦える。眼前に迫る鬼ジジイに攻撃を加えるべく、前に向かって大きく踏み出すが、その時俺の後方から音が聞こえて来た。


『ドサッ……』


この音はまさか……

この人が倒れたような音はまさか……

俺は魔氷剣の斬撃を鬼ジジイに向かって飛ばすと同時に音のした後方に目を向ける。

ぁあ……

ベルリア……

やっぱりお前か……

残念な事に音が聞こえてきた瞬間に予測は出来ていたが、実際にこの場面で倒れているのを見てしまうと、さっきのベルリアとのやり取りが、もうギャグかやらせか何かかと思えてしまう。

あれだけ注意をしたのに……。

いずれにしてもベルリアが危ない。相対していた鬼が倒れたベルリアに刀を振りかぶり襲いかかろうとしている。

俺は燃費度外視で再び『ドラグナー』を連射しベルリアに刀を振り上げていた鬼を撃ち、全力でベルリアの下に走った。


「おい! ベルリア! 起きろ! 目を覚ませ!」


ベルリアを庇うように立ち背後で倒れているベルリアに声をかけるが反応が無い。

俺がベルリアの下に走ったので完全にトライアングルのフォーメーションが崩れてしまったので、シルが俺がいた位置に戻り、立て直す。


「ベルリア! 目を覚ませ! 死ぬぞ!」


大声を上げベルリアの覚醒を促すが全く反応が無いが、ルシェもミクとカオリンを護りながら戦っているので誰も直接ベルリアを起こしに向かう事ができない。


「わたしが起こしてやる。燃やせば死ぬ前に起きるだろ!」

「いやっ、それはダメだ! 二度と起きることが無くなってしまう」


あのルシェの感じは……本気だ。

ベルリアに獄炎を放つつもりか?

あれは火力が強すぎる。いくらベルリアが悪魔とはいえ気を失った状態であれをくらえば、おそらく燃え尽きてしまう。

流石に、それはやらせるわけにはいかないが、前衛の枚数が1枚減った状態は長くは続けられない。

こうなったら……


「ミク! ベルリアを撃て! スピットファイアで撃ってくれ!」

「え……。海斗! ベルリアを撃つの!?」

「ああ、頼む! 頭以外を狙ってくれ! ベルリアなら回復できるから大丈夫だ! ミクがやってくれないと獄炎で消し炭にされてしまう。ただしリングは外してくれ」


流石に強化された炎弾は刺激が強すぎるので、リングを外して小火球を放ってもらう。


「……わかったわ」


意を決したミクがベルリアに向かってスピットファイアの引き金を引いた。

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