第472話 妹

「あいりさん、大鬼の方は上手く倒せたみたいですね」

「ああ、『アースウェイブ』のお陰で殆どの動きが限定されていたから間合いさえ気を付ければ問題無かったよ。それより海斗は大丈夫なのか?攻撃をくらってしまったようだが」

「俺は大丈夫です。鎧が凹んだだけですから……」

「そうか、怪我が無くて幸いだったな」


俺達は落ちている魔核2個を回収してから先に進む事にする。


「次からはシルとルシェも頼んだぞ。この階層の鬼の特徴もそれなりに分かって来たしな」

「分かりました。お任せください」

「ちゃっちゃっと燃やしてやるよ」


リスクを避ける為に状況次第で次から2人にも参戦してもらう事にする。

マッピングしながら進んで行くが鬼の気配は無い。

この階層はそれ程エンカウント率は高くないのだろうか?


「マイロード、避けてください!」

「え?」

「上です!」


上?

上がどうしたんだ?

ベルリアに避けて下さいとは言われたが、咄嗟の事で身体が動かなかった。


「あっ!」


俺の右足に履いているブーツの爪先を掠めるようにして地面に液体のような物が落ちて来て、そのまま液体周辺の地面が煙を上げて溶けてしまった。

危なかった後一歩踏み出していたら俺の足は地面同様完全に溶けてしまっていたかもしれない。

だけど一体どこから………いやベルリアが上って言ってたから上か。


「マイロードご無事ですか?」

「ああ、危なかったけど大丈夫だ」


咄嗟に動けなかったのが逆に良かったのだろう。

この階層にも罠があるのか。しかも頭上からか……

常時上を向いて先に進む事は非常に難しいのでどうしようかな……


「ベルリア、感知できるのはさっきぐらいが限界か?」

「そうですね。発動してからしか感知できないので先程のが限界です」


天井までそれなりの高さがあるからか、ベルリアの警告から地面に液体が落ちて来る迄に少しの時間があった。


「シル、ベルリアの声を聞いた瞬間に『鉄壁の乙女』を発動する事は可能か?」

「恐らく先程ぐらいの感じであれば可能です」

「そうか、じゃあシルは俺と並んで進んでくれ。みんなも俺とシルを中心にして固まって移動しよう」


罠は、意味不明だがほとんどの場合俺を中心にして降りかかって来るので、シルに俺の側にいてもらうのが1番合理的だと思う。

俺を中心にしたフォーメーションに変えて先に進む事にする。


「ん?シルどうした?」

「ご主人様をお守りする為に必要な事です」

「そうか?まあそう言う事なら別にいいけど」


歩いているとシルが俺の右手を握って来た。

シルも一応女の子ではあるが春香の時とはまた違った感じで、完全に年の離れた妹と手を繋いでいる感じだ。

俺は一人っ子なので今までシスコン属性は全く無かったが、シルが俺の下に来てからと言うもの完全にシスコンの気持ちが理解出来るようになってしまった。

シルもルシェも俺の家族でポジション的には完全に妹なので、この感情は正しい物だと言える。

ただシスコンというだけで無く、大きな娘が出来たような父性とも言えるような不思議な感情も混在している気がするので、それだけシルの事を愛おしく感じているのだと思う。

ただこの時点に於いてもロリコン属性だけには一切目覚めなかったのは、自分を褒めてやりたい。

この状況でロリコン属性に覚醒していればパーティを組むどころの騒ぎでは無くなり、探索者を続ける事は困難になっていたかもしれない。

超絶ロリコン『ピンクの彗星』とかの2つ名が付いていたらもう2度とダンジョンへ踏み入れる事は出来なくなっていたかもしれない。


「あ〜、シルとだけ手を繋ぐとかあり得ないだろ!この変態!わたしも繋ぐぞ」


今度は罵声と共にルシェが俺の左手を握って来た。

ルシェの手繋ぎに対してもシルと全く同種の感情が自分の中に生まれている。

幼い妹2人と両手を繋いで探索………

ダンジョンで一体なんの絵面かとも思ってしまうが、かなり幸せなのでこれはこれで有りかもしれない。

ただ間違っても他の探索者には見せれない姿だ。

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