第446話 粘糸

シルの一撃でアラクネは完全に消滅した。

だが、依然ベルリアとあいりさんは粘糸に囚われ倒れたままだった。

どうやらモンスターが消失しても放出した粘糸は消えないらしい。


「ベルリア、あいりさん大丈夫ですか?」

「マイロード申し訳ございません」

「海斗、大丈夫は大丈夫だが自分で抜け出すのは不可能の様だ」

「分かりました。助け出しますね。ミクとカオリンはあいりさんを頼む」


俺はベルリアを助ける為に粘糸のネットを取り除くべく手を伸ばした。


「ベチャッ」


粘糸に触れると思っていた以上に粘着性が高くベトベトだ。


「う〜ん」


粘糸を掴んだ俺の右手がベチャベチャして糸から離れない。

これは完全にまずいやつだ。

素手で触るとミイラ取りがミイラになる奴だ。


「海斗〜。やば〜い。私も身動きが取れなくなった………」


ミクの声がして目をやると、そこには両手を粘糸に囚われて外れなくなり必死でもがいているミクの姿があった。


「海斗さ〜ん。このままだと助けられないのです。この糸厄介すぎるのです」


どうする?何かで切るか燃やすしかないか?

試しにライターで燃やしてみるか?

ベチャベチャしているので燃え難い気はするが、もしも可燃性で一気に燃え上がったらやばいか。

ベルリアの『ダークキュア』があればそれでもいけるか?

う〜ん。ベルリアはそれでもいける気はするけどあいりさんはな〜。一時的だとしても火ダルマになるのはまずいよな。

とりあえず直接触るのは不味いので俺は左手に持ったバルザードで右手についた粘糸を切り払った。

バルザードを使うと思ったよりスムーズに切り離す事が出来た。

これって魔剣との相性がいいのか?

ただバルザードの大きさでこの細い糸を綺麗に切り取るのはかなり困難であると言える。

糸を切り離して動けるようになった俺はミクの所まで行き、今度はミクの手についた糸を切断して切り離した。


「助かった。まさかこんなにくっついて動かなくなるとは思わなかったわ」

「ミクってナイフ持ってたよな。試しに切り離してもらっていいか」

「やってみるわね」


バルザードは刃が大きすぎる為あいりさんまで傷つけてしまう可能性が高いので、ミクのナイフで同じ事が出来るか試してもらった。


「う〜ん。ちょっと無理みたい。切れない事は無いけど、すぐベタベタして切れなくなってくる」


通常のナイフでは上手く切れないようなので、やはりバルザードが魔剣だからスムーズに切れたのかもしれない。


「海斗、思い切ってやってくれ。少しぐらい斬れても文句は言わないから」


あいりさんはこう言っているが、全く上手くいくイメージが湧かない。だけどこのままでいる事が出来ないのも間違いない事実だ。

俺は意を決してバルザードをあいりさんの方に向け糸を切り始める。


「あっ…………」


正面から切り始めるのは少し勇気が必要だったので背面から切り始めたが、切り始めてすぐにあいりさんの長い黒髪が数本ハラリと落ちてしまった。

切れた。いや俺が切ってしまった。

あいりさんの黒髪が………

出来ない。俺には出来ない………


「くっ……」

「海斗、どうしたんだ?」

「すいません、あいりさんの髪が切れました」

「…………どのぐらい?」

「数本です」

「数本か……そのぐらいだったら問題ない。続けてくれ」

「………いえ、俺にはこれ以上は……」


まだ糸はほとんど切れていない。

今は髪の毛数本で済んでいるが、これ以上続けると悲惨な運命が待っているのが明確なビジョンとして見える。

これほど明確に未来のビジョンが見えた事は無い。

これはほとんど未来予知のレベルだ。

極限に追い込まれたこの状況で未来予知という新たなスキルに覚醒したのかもしれないが全く嬉しく無いし余裕も無い。


あとがき

サバイバーがカクヨムコンの読者選考を通過しました。

応援いただいた読者の方はありがとうございます。

ただ、この先はかなり難しい気がしますが、応援よろしくお願いします。

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