第390話 レイド進行

俺は今新たなミノタウロスを迎え撃っている。

今のところミノタウロスのパワーには目を見張るところがあるものの、単体での戦闘能力は十分に対応できるものだ。

周りに目を向けてみるが、他の探索者達も十分に渡り合えている様に見える。

俺の場合はMPが問題だが、今回は始めから低級ポーションを使うつもりなので出し惜しみはしない。

魔氷剣の斬撃を飛ばして怯んだ隙に距離を詰めて『ドラグナー』で致命傷を与えてから止めをさす。

もちろん下手をすれば命の危険があるので言う程楽勝では無いが、とにかく落ち着いて手順を繰り返す事に集中する。

他のメンバー2人も使用する手段に差はあるものの、後方からの支援も含めてほぼ同じ手順でミノタウロスを倒して行く。

俺達だけで既に7体を倒したので再度状況を確認してみるが、事前に想定した以上に状況は良く無い。


「みんな大丈夫か〜!」

「私達は全然大丈夫だけど」

「減りませんね〜」


当初50体以上いたと思われるミノタウロスは、かなりの数が前線にいた個体に入れ替わって後方で控えていた個体が前線に出て来ているが、いまだに後方に控えている数と合わせておよそ50体。

戦闘開始から比べて全く数が減っていない。

恐らく、6パーティで30体以上のミノタウロスを倒しているはずだが、現存しているミノタウロスの数は50体余り………

このエリアボスは増える。

以前出会ったホブゴブリンの様に増えるのだ!

ギルドで話を聞いた時には総数40体余りと聞いていたが、開戦時の段階で既に50体を超えていたので、当初の想定を超えている。

1番最初にここを発見したパーティは最初4体のミノタウロスと交戦したらしい。

ただ倒しても倒しても数は減らず、むしろ増えてしまい10体を超えた段階で、扉の外へ退却する事となったらしい。

その後も幾つかのパーティが単独で挑みその度に数を増やしてしまう結果となり今に至っている。

40体程の敵に総勢で35名を超える探索者で挑み一網打尽にする。それが俺達の当初の計画だったが、思っていたよりも数が多いせいで倒すペースが増殖のペースを大きく上回る事が出来ていないので敵の総数が減らない。

現状、ミノタウロスは後ろに控えている一団の分だけ常に余力を残した状態と言える。

こちらも敵の戦い方に慣れて来たので多少のペースアップは見込めるが、それも一時的なもので体力の減少と共にペースダウンしていく事は間違いない。

まだ戦闘を開始してどれだけも経過していないが、普通に考えてこの戦闘状態を数十分に渡ってキープする事は出来そうにない。

たまにアニメなどの描写で数時間に渡って戦い続けている様なものがあるが、あれはリアルのダンジョンでは絶対に不可能だと思う。

俺は更に後続から向かって来たミノタウロスと交戦を続けが、魔氷剣が解けてしまったので応戦しながら再びシルの援護を受けるが、俺自身いい加減息も苦しくなって来ている。

もう一度周りの状況を確認してみるが、戦闘ラインは殆ど動いていない。負けてはいないが押し込んでいるわけでも無いので、数の暴力で圧倒的にミノタウロスが優位だ。

見る限り、新しく増殖したミノタウロスは完全にフレッシュな状態を保っており体力に際限は無さそうだ。

このまま行けば、時間と共に撤退も視野に入って来るが、今回引いてしまえば数がどこまで増えるか分からない。

現状でも乱戦状態なのにこれ以上数が増えてしまうと本当に手に負えなくなってしまいそうなので、どうにかして倒してしまいたい。


「シル、どう思う?」

「もう、一気に蹴散らしてしまうしか無いのでは無いでしょうか?ルシールを呼べばこちらの手数も増えますし」


シルの考えも俺の考えている事と大差は無さそうだが、6パーティもいるのに自分のパーティだけが突出して攻撃をかける事に抵抗感がある。

正直俺達が仕掛けて上手くいかなかった時に戦況全体のバランスが崩れてしまいそうで怖い。

俺1人で責任を取れる様な事ではない。

どうする………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る