第352話 春の香り
俺は今春香と買い物をしている。
無事にホワイトデーのお返しをする事が出来たが、もともと春香の春用の服を買うのが目的だったので買い物を続ける。
「その指輪お揃いなんですね。かわいいですよね〜」
服屋の店員さんが春香に声をかけてくるが、いきなりさっき買ったばかりの指輪を褒めてきた。
流石は服屋の店員さん。お洒落に敏感なのか指のリングまで見てるとは凄いな。
「そうなんです。さっき買ってもらったばっかりなんです」
「あ〜いいですね。ラブラブじゃないですか〜」
「そうですね〜」
やはり、店員さんも盛大に勘違いをしているようだが、春香もいちいち否定するのも面倒なのか適当にスルーしている。
「春服を探してるんです」
「そうですね。それじゃあ、その指輪にも合いそうな春服を探してみますね〜」
しばらく春香とやり取りをしながら持ってきたのは、水色のパンツに白のトップスと花柄のワンピースだ。
花柄の花の部分が赤色なので指輪を意識したのかもしれない。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
春香が試着室に入って着替えるのを待つ為に俺は店内で待つ事にした。
春香の着替えた姿を見れるのは嬉しいが、この時間は正直辛い。
男1人で女性用の服のお店にいるのは場違いな感じだ。
「本当に可愛い彼女さんですね〜。お揃いの指輪を買ってあげるなんて彼氏さんもなかなかやりますね〜」
「いや俺は彼氏じゃ………」
「えっ?またまた〜」
「いや本当に」
「え…………まさか、あんな可愛い子を遊びで………」
途端店員さんの態度がおかしくなった。まるで汚物でも見るかのような冷たい目だ。
やばい。俺また何か間違えた。
「いやいや違います。誤解です。遊びだなんてあり得ませんよ。友達です。しかも一方的に俺が好意を持っていて………」
店員さんのあまりの視線に焦ってしまい、言い訳じみた余計な事まで口走ってしまった。
俺の申し開きを聞いた瞬間、店員さんの目がまた変化した。
今度は、なんだろう?生暖かいような、呆れているような何とも言えない目だ。
「余計なお世話かもしれませんが、人生の先輩としてお姉さんからアドバイスです。貢いで貰いたい系の女の子以外は、ただの友達からお揃いの指輪を貰ってあんなに嬉しそうにはしませんよ。しかもねえ、左手のねえ…」
そこまで店員のお姉さんが喋っていると着替えた春香が出てきた。
「どうかな?似合ってないかな?」
そこにはパステルカラーのパンツルックの春香が立っていた。
学校ではスカートで普段のお買い物でもスカート姿しか見た事がなかったので新鮮だ。
一言で表すと『いい』
まさに春色の天使だ。
「あ、ああ。いいと思う」
「あんまり、こういう格好しないから大丈夫かな」
「大丈夫とかじゃない。すごくいいと思う」
俺の言葉に安心したのか笑顔を見せてくれる。
まさに春の香りがして来そうだ。
そうか春香の名前そのものじゃないか。
きっと春香の両親はこうなる事を予測してぴったりの名前をつけたに違いない。
流石は春香の両親だ。
「それじゃあワンピースも着てみるね」
また春香が着替え室に戻って行った。
「やっぱり彼女さん可愛いですね。笑顔が素敵ですし服もよく似合ってます」
「そうですね」
ここでまた否定をすると余計ややこしくなりそうなので、そのまま返事をする。
春香が着替えている間店員さんは、何故か俺に女心とはを語り始めてしまった。
他にもお客さんがいるので相手をしなくていいのか心配になってしまったが、店員さんが何故かヒートアップして来てしまった。
「お待たせ。どうでしょう?」
花柄のワンピースから再び春の風と香りがこちらまで届いたような錯覚を覚える。
今日着ていた服もよく似合っていたが、このワンピースもよく似合っている。
春の妖精が舞い降りたようだ。
「うん、いいと思う」
「さっきのとどっちがいいかな?」
「う〜ん、どっちもいいと思う」
「両方買うのはちょっと無理だから、どっちかなんだけど」
なんだこの究極の選択は。どっちもいいのにどちらかをやめろとは………
いっその事、片方は俺が買ってしまおうかとも頭をよぎったが、春香の性格からして指輪と両方は受け取ってくれない気がする。
う〜ん。先程のパンツルックを脳裏に浮かべ目の前の妖精に重ねる。
どちらも捨てがたい。だがレア度という点でパンツルックに軍配が上がる気がする。
「さっきのパンツルックの方がいいんじゃないかな。春香にぴったりだと思う」
「うん。じゃあそれにするね」
春香が店員さんに先程の服を渡して着替えに戻った。
「彼氏さん、センスいいですね。彼女さんにぴったりですよ。彼女さんも似合ってるって言われて笑顔が溢れてましたね」
俺に服のセンスがあるとは思えないが、春香にぴったりの服が見つかってよかった。
もう少ししたらあったかくなるので、今日買った服を見られると思うと俺もテンションが上がってしまった。
早く春になるといいな。春が待ち遠しい。
あとがき
HJ文庫モブから始まる探索英雄譚3をよろしくお願いします。
なんと本日のTSUTAYA時間別文庫ランキングで前作モブから2が1位を獲得しました!
ありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます