第160話 軽い模擬戦

俺は今1階層でベルリアと訓練をしている。


「それじゃあ、いきますよ。」


「ああ、いつでも来てくれ。」


そう言うと同時にベルリアが斬りかかってくる。

軽くやってくれてるのだとは思うが、自分よりもかなり低い位置からの攻撃に感覚がついていかない。

大きく避けて、剣戟を逃れる。


「マイロード、大きく避けすぎです。最小限過ぎると逆に危ないですが、もう少し小さな動きでお願いします。」


そう言って再び斬りかかってくる。

小さな動き、小さな動き。

無理。

再び大きめに避けてしまった。


「マイロード練習なのですから、当たっても大丈夫です。思い切ってやってみましょう。」


だから大丈夫じゃないんだよ。

今度も上段から斬りかかってくると思ったら横薙ぎに足を狙ってきた。


「おぃ。危ないって。何するんだよ。」


「マイロード、これは訓練ではありますが敵はワンパターンではありませんよ。色々な角度から攻撃はくるものです。フェイントだってあるのです。練習のうちから対応できるようにする必要があります。」


言ってる事はわかる。本当に正しいと思う。思うがこっちは武術経験なしの只の高校生だぞ。無理だろ。


そう言いながらも今度は逆の足を狙って斬りつけてくる。今度は虚を突かれなかったのでスムーズにバックステップでかわすことができた。

今度は下から跳ね上げるように斬りつけてくる。今までモンスターにはなかった動きに反応が遅れ少し掠ってしまう。

痛い・・・

痛がる暇もなく返す剣で袈裟斬りを仕掛けてくる。これも掠った直後で動きが硬くなっており、くらってしまった。

カーボンナノチューブのスーツのおかげで斬れてはいない。いないがとてつもなく痛い。


「ストップ、ストップだ、ベルリア。」


「どうされましたか?マイロード」


「いや、どうされましたって斬られたんだよ、お前に。」


「別に傷を負った様子はないですが。」


「ものすごく痛いんだよ。『ダークキュア』を頼む。」


「そうでしたか。『ダークキュア』いかがでしょうか。」


「ああ、良いようだ。」


「それでは。」


と言うとベルリアがまた斬りかかってきた。こいつなんか容赦無いな。

今度は突きを仕掛けてきた。これもモンスターには無かった攻撃だ。とっさにバックステップを踏んだが、そこからさらに押し込んで突いてきた。


「グフッ。」


痛い。


「マイロード、突きは後ろに避けるだけでは足りません。その後の動きに続けて動くか、横に避けてから攻撃に転じてください。」


「お、おい。攻撃しても良いのか?」


「もちろんですが、私も避けますので簡単には当たりませんよ。」


さっき避ける練習って言わなかったか?絶対当ててやる。なんかこの小さいのに一方的にやられるのは心情的に我慢できない。


体制を整えると再度突いてきたので、指導を受けた通り左に避ける。

上手く避けたので攻撃に転じる・・・

その瞬間ベルリアが横に剣を薙いだ。


「グゥウー。痛ってー。それはズルだろズル。」


「マイロード、何度も申し上げますが、訓練は本番を想定して行うものなのです。ですからいろんなパターンを経験する事が必要なのです。」


「ベルリア、そこそこにしてやれよ。シルにも言われただろ。海斗はあまちゃんなんだから、あんまり厳しくしてやるな。」


「はっ。ルシェリア姫の仰せのままに。」


なんだこれ。なんか立場がおかしな事になってないか?

それはそうと、痛みの中でも俺は聞き逃さなかった。

ルシェが俺の事を海斗と呼んでくれた。今まで、「おい」とか「お前」としか呼んでくれなかったのに、今確かに海斗と呼んでくれた。感動だ。


「ルシェ、もう一回言ってくれないか?」


「は?あまちゃんか?」


「いや、それじゃなくて俺の事だ」


「だからあまちゃんだろ。」


「いや名前だよ、名前。今海斗って呼んでくれただろ。なあベルリア。」


「ああ、確かにそう呼ばれてましたね。」


「ベルリア。そんな呼び方してないだろ。」


「はい、していません。私の勘違いでした。」


おいおい、ベルリアそれは無いだろう。せっかくの男同士なのに、お前への畏敬の念が薄れていくぞ。

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