第101話 水難
俺は今、空中を舞っている。
俺が捉えられていたイカの足があいりさんにより切断された。それにより、俺は振り回されていた遠心力により空中に飛ばされてしまった。
今まさに、漫画かアニメのように凄い勢いで頭から飛び出している。
「ああ〜あ〜。」
想像以上の距離を飛ばされて、着地いや着水してしまった。
頭から豪快に水中にダイビングしてしまった。
スローモーションのように水面に近づくところから着水までが流れていく。
これが世に言う走馬灯か。俺は死ぬのか・・・
せっかく探索者として調子が出てきたのに。春香と王華学院でキャンパスライフを楽しみたかった。
と考えているうちに頭から水中に思いっきりダイブしてしまった。
勢いがあったせいでライフジャケットの浮力を無視してかなりの深さまで達してしまった。
「ガボボボグフッ。」
死ぬ。死ぬ。死んじゃう。
この深さまで水中に潜ったことの無い俺はパニックに陥ってしまった。
透明度の低い水の中で恐怖を感じ、暴れながら息を止めるのを忘れて叫んでしまった。
「ガバブバベッ・・・」
当然思いっきり水を飲み込んでしまった。もうだめだ俺死んだ・・・・
もがく気力も失せた頃、ライフジャケットが本来の目的を思い出し、俺の体を水面へと押しやった。
どざえもん状態で浮かんだ俺を誰かが引っ張ってくれる。地獄の使者だろうか。
しばらく引っ張られると足が地面に引きずられて、そこが水辺であることがわかった。
朦朧とする意識の中で、あいりさんの声がする。
「海斗、しっかりしろ、こんな浅いところで死んだら恥だぞ!」
「バチーン!バチーン!」
両方のほっぺたから強烈な痛みを感じて意識が覚醒する。
「ゴホ、ゴホッ、ゲーッ、ウゲーッ」
「おおっ。海斗無事か。」
「あいりさん・・・助けてくれたんですね。ありがとうございます。でもほっぺたが痛いです。」
「すまない。他に方法を思いつかなかったんだ。」
物語の主人公であれば、普通こんな時に、マウストゥマウスなんてイベントがあるんじゃないだろうか。残念ながらモブの俺にはプロレスのようなビンタイベントしか発生しなかった。ちょっと悲しい。
「海斗大丈夫?もしかして海斗って泳げなかったの?それでライフジャケットなんかつけてたんだ。」
「ああ。言ってなかったっけ。子供の頃にプールで足を引っ張られて溺れかけてから泳げないんだ。」
「そうなんだ。それならその変な格好にも納得ね。」
「海斗さん。すごかったのです。リアルの世界であんな飛んでいき方、TVでも見たことないのです。ネット配信していれば100万アクセスはいけたのです。」
「ああ、そう。ちょっとそんな余裕はなかったけどね。」
「よかったら、今度泳ぎ方教えてあげようか?」
「いや、今更いいです。ライフジャケットに頑張ってもらうよ。」
「今日はこれで終わりにして引き上げましょう。海斗もあいりさんも、ずぶ濡れだから風邪引くわよ。」
今日はドローンも買って、張り切って臨んだのだが、午前中で切り上げることになってしまった。他のメンバーにはちょっと申し訳ない事をしたと思うが、今回の出来事で水へのトラウマが増してしまったかもしれない。
いずれにしても、ライフジャケットには感謝しかない。9980円は安すぎる。10着ぐらいストックしてもいいぐらいだ。
一応明日の約束をして別れたが、明日までに気持ちを立て直すことができるかは、ちょっとわからない。このまま帰って寝るには早すぎるので、昼ごはんを食べたら気分転換に映画でも行こうかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます