第38話 ショッピングモール

俺はダンジョンマーケットの後にショッピングモールに来ている。

ダンジョンマーケットの時と違って、特に、あてがあるわけでもなく、欲しいものがあったわけでもない。

葛城さんとお買い物と言われて、とっさに思いついたのがショッピングモールだっただけだ。

一応服を買いたいとは言ったものの、ほぼ毎日ダンジョンに潜っていたのでデニムパンツに、パーカーかトレーナーで十分なのだが、今回はそれは言えない。


葛城さんが


「どんな服が好みなのかな?カジュアルな感じかな?」


「あんまりよくわからないからお任せしていい?」


「わかった。まかせといて。」


と言って連れてこられたのは カジュアルないつものお店ではなく、


なぜか、ちょっとお洒落な大人っぽいお店だった。

一人だったら気後れして入れそうにないお店だった。


「あのー 葛城さん?」


「大丈夫、大丈夫。任せといて。」


「はい・・・」


それからなぜか、俺の着せ替えショーがはじまった。

誰も見たくないだろうに・・・


「あ、こっちもいいかも。やっぱりこっちかな。。ちょっと着てみて。」


「あ、ああ はい。」


(普段見せない葛城さんのノリに圧倒させられながら、俺は着せ替え人形と化した)


もしかしたら1時間程度は、着せ替えショーが続いたかもしれない。

いい加減疲れてきた頃


「うん。これが一番いいと思う。どうかな。」


それは、白のキレイ目なスキニーパンツに 紺色のジャケット 。

自分では違和感しかない。

俺これ着てて大丈夫か?

こんな服いつ着るんだ?

とは思ったものの


「ああ。まあ。すごくいいと思います。」


「よかった。じゃあせっかくだからこのまま着替えて、この後回ろうよ。」


「え?今着替えるの?」


突然の申し出に断る術を持たない俺は、そのままの格好でその後一日を過ごすこととなった。


その後、ウィンドウショッピングを続けていたが、よく考えると俺のものしか買っていない。

プレゼントを送るような間柄でもないし。

そんな事を考えていると、ちょうどゲームコーナーに差し掛かった。


葛城さんが歩きながら クレーンゲームの、大きなぬいぐるみに目を奪われていることに気がついて


「あのぬいぐるみ欲しいの?」


「ううん。クレーンゲームとかで取れたことないから。ちょっとかわいいと思っちゃっただけ。」


「ああ、じゃあちょっと、待ってて。」


俺はすたすた、クレーンゲームの前まで行くと100円を入れてクレーンゲームを起動した。

アームを引っ掛けて取ろうとするが、思いの外アームが弱くて取れなかった。

それからもう100円使い、再度挑戦して、めでたく目当てのブタのぬいぐるみをゲットした。


「すごーい。わたしほとんど取れた事ないよ。」


「これ。どうぞ。」


「え。くれるの?」


「今日のお礼のかわり。」


「ありがとう。うれしい。このぬいぐるみ可愛いと思ってたんだ。」


俺は以前VRゲームにハマる前にゲームセンターにハマったことがあり、クレーンゲームもその時かなりやり込んだ。

当時、男がぬいぐるみを大量に取っても、ちょっと扱いに困ったものだが。


あの時の不毛な日々はこの時のためにあったのだと、過去の俺に感謝した。


その後、ぬいぐるみを持った葛城さんと、歩いていると、


「あれっ、高木じゃないか?」


「え・・・」


「やっぱり高木か。おしゃれしてて見違えたよ。」


そこには同じクラスの岡田 剛 が立っていた。

岡田とは特別仲が良い訳ではないが、悪くもない。

岡田は学校では俺よりは、社交的にやっている。


「あ・・・」 「葛城さん・・・・」


どうやら俺にしか目がいってなかったようで、横にいる葛城さんに気付いて動揺しているようだ。


「え、なんで葛城さんと高木が一緒に・・・」


「あー、まー、あれだ」


「一緒にお買い物に来てるんだよ。」


葛城さんの声に岡田が、あからさまに狼狽えた。


「ああ、そ、そうなんだ。 ああ、俺はちょっと用があるから、じゃあ。」


そういって、それ以上話すこともなく去っていった。


大丈夫だろうか。

明日学校で何もなければいいけど。

岡田の反応に不安を覚えたが、もうどうしようもない。

実際に葛城さんとは何もないのだから、こちらも反応のしようがない。

葛城さんは大丈夫だろうかと思い、目をやるが、特に気にした様子もない。


それからしばらく、歩いて、駅で解散した。

慣れない買い物と葛城さんと一緒だった緊張感から、ダンジョンの4階層に潜ったよりも、数倍疲れていた。


ところで、このお買い物って、ちょっとデートっぽかったかも。と後になって気がついた。

もちろんデートでは全くないのだが。


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