第7話 最強!ゴブリン戦

2階層の階段の直ぐ側にゴブリンがいた。


心臓が止まるかと思うほど焦った。 覚悟をしていたつもりだったが、ボコボコにされて死にかけた記憶がフラッシュバックして動けなくなってしまった。


む、無理だ。


おしっこちびりそう。


全身から変な汁が出てくる。


顔面蒼白になりながらガタガタ震えがきてしまった。


まだ俺には早すぎた。 今なら1階層に上がれば間に合う。なんとか逃げ切らないと死ぬ。

そんな事をゴブリン遭遇の一瞬で考えていた俺に シルフィーが


「ご主人様、大丈夫ですか? どうかしましたか?体調でもお悪いのですか?」


と心配して声かけてくれた。


幼女の声はどこまでも優しく、癒しの響きを持っており、恐慌状態にあった俺のメンタルを立て直す

のに十分なだけのヒーリングパワーを秘めていた。

正気に戻った俺は


「大丈夫だ。ゴブリンは俺に任せとけ」


と幼女相手に大見得を切ってしまった。

幼女とはいえ俺にとって母親以外で唯一接点のある異性である。

もちろんロリコン趣味など一切無いが、3ヶ月毎日のように一緒にスライム狩りをしたせいか、シルフィーの

戦闘力に尊敬の念と 妹に対するような肉親の情のようなものが湧いてきていた。 残念ながら本当の妹はいたことがないが。

見得の一つや二つ切って当たり前だ。

ここで男を見せなくていつ見せるんだ。


「今だろ !!!」


俺はやめとけばいいのにゴブリンに向かって

「かかって来いやー!!!」

と大声をあげて向かって行った。

俺の武器は中学の修学旅行で自分用のお土産に買った1500円の木刀

それと今日買った30万円のスチール製の盾だ。


「うぉー!!!」


大声をあげていないと恐怖におしつぶされそうになりながら全速力で突進していった。

喧嘩なんか小学校以来していない。

格闘技の経験も一切無い。

ダンジョンには2年以上潜っているが殺虫剤でスライムを狩る毎日。

対人型の戦闘経験は全くない。

それでも突進した 。

20m程の距離が100m以上あるような錯覚を覚えながらスチール製の盾でぶつかった。

コンクリートブロックにでもぶつかったような衝撃があったが、それでも全身全霊で押し込んでいった。

スチール製の盾越しにゴブリンの荒い息遣いと、怒り狂ったようなプレッシャーを感じる。

幸い武器を所持していない個体のようで、ガンガン 恐怖のゴブリンパンチを盾に向け浴びせてくる。

俺は、よろめきながらも耐え、攻撃するべくタイミングを見計らっていた。


呼吸の為か一瞬ゴブリンパンチの嵐が止まったので、ここしかないと思い、思いっきり振りかぶって野球のバットの要領でゴブリンの頭に木刀をクリーンヒットさせた。

ヒットさせたが、まるでタイヤを殴ったような感覚があり手が痺れた。

肝心のゴブリンは「ギィヤー」と悲鳴?はあげて痛がってはいたが、ほぼノーダメージのようだった。


「 ま、まじか !?」


絶好のタイミングからの渾身の一撃だった。


この一撃以上のダメージを与えることはLV4のモブである今の俺にはできない。


この一撃にかけていた。


それが崩れた今、俺のチキンハートを再び恐怖が襲ってきた。

やばい。逃げるか。 いや シルフィーにやってもらうか。


またクズの考えがよぎった瞬間、『男のプライドさん』が戻ってきた。

恐怖を抑え込む為にやってきた。


何がなんでもやってやる。かっこ悪くてもやってやる。


「グァーガァー!!!」


人生で一度もあげたことのないような雄叫びをあげ、再び盾で押し込んだ。

パワーは明らかにゴブリンが上。今の状態は長くは続かない。

盾越しにゴブリンを観察したが、腰蓑しか身につけていないし、ゴブリンに性別があるのかよく知らないが、多分こいつはオスだ。

頭を狙っても効果が薄いのであれば、頭以上の急所を狙うしかない。

ぱっと思いつくのは、目、鼻、そして腰蓑の中のもの。

一番ヒットしそうなのは腰蓑の中のものだ。

オスであるなら生物である以上モンスターであろうが、ただで済むはずがない。

やってやる。

完全に変なスイッチが入った俺は、再び押し合いの中タイミングを見計らっていた。

先程と同じ様に呼吸の合間を見計らって俺は、盾を投げ捨て木刀の一撃にかけた。

今度はやったこともないゴルフの要領で玉に向かって渾身のスイングをお見舞いしてやった。


「グシャ」


という嫌な感触が伝わってきた。

今度はゴブリンの雄叫びはなく、これでもダメなのか?

盾も手放したしもうこれ以上は手がない。

猛烈に焦りながらゴブリンに追撃。

もう一度同じ場所に渾身の一撃をお見舞いしてやった。

今度も十分に手ごたえがあったが、ゴブリンは反応しなかった。


やはりダメなのか・・・


絶望の念で意識が飛びそうになった次の瞬間 なんとゴブリンがぶっ倒れた。

ぶっ倒れたと思ったら消失した。


ついにやった。やってやった。


「うぉー!!!」


今度は勝利の雄叫びをあげた。

多分戦闘時間は30秒もないぐらいだったかもしれない。だが俺にとっては永遠にも感じる30秒間だった。

人生、いや命そのものをかけた30秒だった。

次も同じことをやれと言われてもできない。

ゴブリンが武器を持っていれば勝てなかったかもしれない。


アニメのヒーローの様なカッコいい勝ち方ではない。


生にしがみついた苦し紛れの一発によるギリギリの

勝利だった。


悪役が使う様な手で勝った。


でも俺は勝った。ついにあのゴブリンに勝った。


この感動をみんなに伝えたい。


感激の嵐と自己陶酔MAX中に俺の女神の声が


「ご主人様。カッコ良かったです。でも次からは私も一緒に戦わせてくださいね」


ああ・・・やっぱりこの幼女は紛れもない女神だ。

心のオアシスだ。

頑張ってよかったと心から思える。

今度シルフィー教を世界に流布せねばと真剣に考えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る