異世界で目覚めたら【卓球のラケットとピンポン玉の生成スキル】というハズレスキルを与えられていた 〜虐げられていたエルフの美少女を助けたら一緒に追放されそうなんだが? そんなの許せない! 仕返しだ! 〜

ゆうき@呪われ令嬢第一巻発売中!

第1話 卓球少年のオレ、目覚めたら深い森の中でした

 努力をすれば、きっと報われる時がくる。だから決して諦めないで――


 それが幼い頃に死んだ、母さんの最後の言葉だった。


 オレの母さんは世界的に有名な卓球の選手で、世界大会でも何度も優勝した経験のある、凄いプレイヤーだった。


 けれど、母さんはオレが小学生になる前に、病気で死んだ。


 オレは母さんの意思を継ごうと、三歳の頃からラケットを握って毎日ひたすら練習に明け暮れていた。


 友達と遊ぶ事も、ゲームやマンガも一切手に取らなかった。唯一ラノベだけは読んでいるくらいだ。


 それくらいオレ——卓山たくやま大空そらは卓球に命を懸けてきた。


 けど、オレには才能がなくて、いくら練習しても一定のレベル以上にはうまくならなかった。


 卓球が強い高校に入れたのも、大人達がオレに期待をしたからなのかもしれない。けど、オレはその期待に応えられなかった。


「はあ……今日も雑用ばっかりだった……くそっ、先輩にちょっと意見出しただけでいじめやがって……ちゃんと練習したいなぁ」


 溜息をしながら、トボトボと帰路につく。

 もう着替えるのも面倒で、体操着のまま出てきちゃったけどいいよな。


 ――オレ、なにしてんだろう。


 母さんのようなプレイヤーになりたかったけど……オレには無理なのかな。

 いや、母さんが言ってたじゃないか。強い人間は絶対に諦めないって。俺は諦めないぞ。


「よし、コンビニ弁当でも買って、その後に筋トレをしよう。どうせ親父は仕事で今日も家には俺一人だろうし」

「にゃ~」

「なんだお前? どこから来た?」


 コンビニに向かう途中、真っ白な猫が鳴きながら近寄ってきた。


 お前は悩みが無さそうでいいな……いや、猫の社会にもいじめとかあるって聞いたことがあるし、こいつも大変なのかもな。


「にゃん」

「あっ……行っちまった。ちょっと撫でたかったな……」


 白い猫はオレに別れを告げるように、短く鳴いて去っていった。


 オレは改めてコンビニに行こうとすると、白い猫は道路へと飛び出して行った。しかも車も来ている。


 お、おい……あの白猫、あのままじゃひかれるんじゃないか?


 そう思ったオレは反射的に白い猫の元へと走りだし、白い猫を抱えて遠くに放り投げた。


 かなり乱暴なやり方だったけど、ひかれるよりは絶対ましだろう。

 そう思っていたオレの耳に、車のクラクションが襲い掛かる。


 まずい、これは避けられない――


 そう思った瞬間、凄まじい衝撃と共に、オレの意識は闇に沈んだ。



 ****



「ここ……どこだろう?」


 気付いたらオレは、深い森の中に寝転がっていた。


 なんだここ……こんな深い森、日本にあるのか? 気づかないうちに外国に連れてこられたのか? そんな馬鹿な。


「夢……なんて事は無いよな」


 試しに頬を引っ張ってみる。うん、普通に痛い。夢じゃなさそうだ。あと体のどこにも異常はない。


 とりあえず辺りをうろついてみよう。ここでボーッとしてても仕方ない。


「それにしても……マジで周りに何もないな」


 いや、一応あるにはある。木だけど。


 あと、木の葉の隙間から見える青空がとても綺麗だ。空気もうまいし、ここにいるだけで気分が晴れやかになる。


 って、なに気分良くなってるんだオレ。さっさと帰って練習をしないといけないっていうのに。


「そういえば……いつの間にオレはラケットを出していたんだ?」


 俺は手に持っていたラケットを見る。


 おかしいな、カバンの中に入れてあった卓球セットにしまっておいたはずなんだが。


 カバンが無くなってるから、しまいたくてもしまえない。ずっと持ってるのは正直ちょっと邪魔だ。


 そんな感じでしばらく歩いていると、ガサガサッと草をかき分ける音が聞こえてきた。


「なんだ、動物か? それとも……人間!?」


 オレは早足で物音のした方に向かう。


 そこにいたのは動物……ではない。勿論人間でもない。青くてぶよぶよしてて、つぶらな瞳が二つ付いた、謎の生き物だった。


「な、ななな何だこの生き物!?」

「…………?」


 思わずその場で尻餅をついてしまった。危うくビックリしすぎてショック死してしまうかと思った。


 謎の生物は、オレの事をじっと見つめたと思ったら、這いずるようにして何処かへと去っていった。


 一体何だったんだ今のは……?


「なんにせよ、無事だったからいいか……」

「キャアアアアア!!」


 安堵の息を漏らしていると、何処からか悲鳴のようなものが聞こえてきた。


 今の声、近くに人間がいる!


 でも……確実に何かに襲われている時のような悲鳴だ。さっきの変な生き物に襲われたのか?


 どうする、武器になりそうなのはこのラケットくらいだ。さっきの変な生き物に襲われたら確実に死ぬと思う。


 いや、助けを求めている人間がいたら手を差し伸べろ――幼い頃に母さんから聞いた教えに背くわけにはいかない。


 それに、考えてるうちに声の主に何かあったら悔やんでも悔やみきれない! とにかく向かうしかない!


「はあ……はあ……あそこか!」


 声のした方に必死に走ると、そこには白いローブを着た女の子が、オオカミを銀色にして禍々しくしたような、見た事のない生き物に襲われていた。


 少女は大木を背に座り込み、手に持つ大きい杖のような棒切れをブンブンしている。


 このままでは、取り返しのつかないことになる――


 でもどうする? オオカミは今にも女の子に噛みつこうとしている。


 大声を出して脅かす? ダメだ、興奮して暴れるかもしれない。

 このまま走って助けに行く? 間に合う気がしない。

 誰かに助けを求める? 街どころか民家すらないし、当然人影も無いから無理だ。


「くそっ……何かないか……え、これは……?」


 気づくとオレの手の中には一つの見慣れた球体……そう、ピンポン玉が握られていた。


 ラケットの次はピンポン玉って……そうだ、これをオオカミに撃って攻撃をすれば!


 って、普通に無理だ! ピンポン玉は軽いから、数十メートルは離れているオオカミに撃っても届くわけがない!


 でも、今はこれしかすがるものがない。注意をこっちに向けるくらいは出来るかもしれない!


 そう判断したオレは、ピンポン玉を上空に軽く投げると、ラケットを思い切り振る。スマッシュというやつだ。


 ——ギュイイイイイン!!


「えっ!?」

「キャア!?」


 オレの放ったピンポン玉は、まるでミサイルような勢いでオオカミに向かって一直線に飛んでいくと、オオカミの横っ腹に直撃した。


 まさか届くと思っていなかった……それどころか、オオカミはピンポン玉の勢いに負けたのか、大きく吹き飛ばされていった。


 何かよくわからないけど……オレは彼女を救うことが出来たようだ。

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