Outer Space Fortress

25.辻斬り

複数のプレイヤーの身体が宙に浮く。

それとほぼ同時に剣閃が走り、残り生命を示すHPバーの色が消えた。死体判定となって地面に落ちる相手を眺め、パインキラーは攻撃の主──スラストに称賛の声を投げかけた。

「火力高いな……参考になるのかこれ」

パインキラーの提案で、修行の名目で辻斬りPKに赴いていたスラストは、通りがかる見知らぬプレイヤーに手当たり次第に殴りかかって遊んでいる。修行なら決闘場でやればいいだろうと言えば、PKしてプレイヤースキルを磨いているところもあるだろうと返されたからだ。パインキラーはギルドの力になろうとディーバで動くことを決めていたが、スラストはディーバを暫く遊んだ後「やっぱ自分でキル取りにいける職じゃないとやる価値ねえわ」と断言し、いつものロイヤルナイトに戻っていた。

しかし服装は戻っておらず、長いトレーンのウェディングドレスのような衣服を身に纏っている。物理法則を無視したゲーム内だとはいえ、邪魔ではありそうなものだが。

「さっきから殺してるの俺ばっかじゃねえか。辻斬り修行したいつったのお前の方だろ。どんどん殺せ。おい、背後から来てる」

「えっ、マジか」

パインキラーが振り向き終わる前に、スラストのランスが振るわれた。初心者と思わしきプレイヤーは後退りして逃げようとしたものの、その甲斐なく刺突で命を散らす。

「紙すぎんよ。この柔さは」

わざわざゲーム内のボイスチャットに切り替えて罵倒するのだから、本当に性格が悪いなとパインキラーは辟易した。それでいて強い。

「ちゃんと見ろ。コンボの精度だけがPSじゃねえから。キル取らねえで防御盛りで行くんなら、その分バフデバフきっちり撒かないとトロール確定。装備があっても装備だけの雑魚になるのに、装備すらなかったらただの雑魚でしかない」

「誰を狙ったらいいのかわからん」

PKプレイヤーを逆に狙うプレイスタイルをしたことはあるが、辻斬りなどこれが初のパインキラーは多少狼狽えている。そもそも、スラストが「やるぞ」の一言で連れてきたのがまずかった。

「全員狙え」

「全員」

「周り全員敵だぞ」

「そうか俺達今、犯罪者」

俺には問答無用で射掛けてきたのに何を今更、とスラストは通りすがりのプレイヤーに襲い掛かって笑う。

この新入り、無駄に正義感が強いとみた。にも関わらず辻斬りはやりたいらしい。

……さて、新たな襲撃者だ。

「来るぞ」

横にブレながら高速移動してくる足音──姿は見えない。この音は忍者だな。

暴れすぎて、スラスト達を逆に狙うプレイヤーが集まってきたようだ。

「え、来る！？」

「来るっ！」

視界とマップ上を凝視していたパインキラーは、接敵を知らされて慌てて得物のマイクを構える。忍者は視界に入り辛い。暗殺職と言われることもあるくらいに。

「足音を聞け。逃げかけてるからデバフで足止めしろ！　そこを俺が殺る」

対策は音を聞くこと。

悲しいかな、現実世界の忍者ならば視覚と同様、聴覚にも認識されることはないのだろうが。

ゲーム内では派手なエフェクトと爽快なアクションの代わりに、ステルス性が十全に発揮できていない。

「ロイヤルナイトの追跡力だと逃げられたら終わりだ。ディーバもいい加減遅せえけど、遠距離デバフが撒ける！」

全方位からの奇襲に警戒し、盾を構えて姿勢を低くするスラスト。その合図を受け、パインキラーはくるりとその場で回って外周に広範囲デバフを撒いた。

速度が遅くなり、眩ましきれなかった視線にちらりと入った忍者を、スラストが見逃す筈もない。いつも通りの思い切りのよさで飛び出すと、スピードを乗せて敵に一直線にランスを突き刺した。

「これが連携。さっさと無能脱出に努めろよ？」

したり顔で協力プレイの成功を祝うスラストは、振り向いて親指を上げている。

「無能脱出ってよ……ガキが偉そうだよなぁ」

やれやれとパインキラーが手を挙げて答えると、スラストは「そんなに変わらねえだろ」とむっとした。

「お前何歳？」

「ハタチだけど……」

「3つ上かよ。俺17歳」

ガキとは言ったが、思いのほか若くて驚いた。学校は行っていないのかと突っ込みかけたが、存分に遊んだ後にそんな話題は気が滅入るだろう。

「ストリーマーとかプロゲーマーになって金稼がねえの？」

「暴言が酷すぎて無理だったな」

「ああ……納得」