19.偶然と必然の勝者
洛叉とスラストが相対する決勝戦。
ゲームをプレイしているとは思えないほどやる気のない公式の配信より数倍は盛り上がっているVanguardのボイスチャットは、煽りとその他無関係な会話でいつも以上に混沌としていた。
「洛叉さん対スラストさんですけど、どうです? 意気込みの程は」
「勝てる気しないです」
「勝てる気しかしないです」
インタビューのようなユキカゼの問いに対する2人の答えは対照的だ。
数日前にも一方的に叩きのめされた洛叉は自信なさげに、叩きのめしたスラストは自信たっぷりに答える。
「準決勝の相手みたいに舐め腐ったやられ方すんのかな、俺」
情けない声を上げてバフを掛ける洛叉の言葉を、スラストはあっさりと否定する。
「いや、お前手加減して倒せる相手じゃねえから」
ゲーマーとして必要な装備、プレイヤースキル、時間、そして回線。人格と社会性以外は「持ってる」スラストが、他の人間を褒めた。洛叉は意外に高い評価を受けたものだと驚く。
「毎日ぶっ殺される日を楽しみにしてるんだが、最近諦め気味だからつまらん。あと大剣やめろ」
「え、え。そこまで高評価? じゃあ今日マジでぶちのめすから」
大剣やめろと言われたのに、得物の大剣を振り回して決めポーズを取る洛叉。まもなくカウントが始まり、指定位置で2人は向かい合う。
試合開始。
洛叉はスラストの攻撃を待った。待ちの姿勢は、時に卑怯ともされるが関係ない。
スラストはいつも通りの初手ランスチャージ──ではなかった。距離は詰めたが、繰り出されたのは盾投げだ。投擲してからガードに跳ね返されるまでの時間、2秒間攻撃力アップの【騎士の宣誓】を使って洛叉のカウンターに備える。
詠唱短縮のための縮地で洛叉の斜め後ろに移動し、振り向いてランスチャージを出した。同時にカウンター攻撃の突きが向かってくる。スーパーアーマー状態だからクラウドコントロールを食らうことはないが、ダメージは入る。カウンター攻撃の威力が低いことを見越しての被弾だ。
カウンターより一拍遅れてスラストの攻撃が決まり、お互いのHPゲージが減っていく。
しかし、より多く削られているのは洛叉の方だ。
体勢を立て直そうとする洛叉だが、スラストはそれを許さずに詠唱妨害を繰り返す。
隙を見つけて反撃しようとするも、隙がないのではどうしようもない…………と、攻撃の手が僅かに緩んだ。ここでアルティメットスキルを────
「……フ」
スラストが鼻で笑う。
洛叉が何が起きたのか把握する頃には、既に地面に叩きつけられていた。素っ頓狂な声が出る。
アルティメットスキルの詠唱に入る前の一瞬でキャッチされ、綺麗にクラウドコントロールが入ってコンボされているのだ。
隙を敢えて作ったということか。
HPは視界の端でなす術もなく溶けていく。なんとかデバフを掛けることに成功したが、雀の涙ほどのダメージにしかならないだろう。
「俺最強!」
洛叉がコンボで死亡し、VCで呻き声を上げたことでスラストの勝利が確定した。
「ちくしょう……ていうかスラスト3冠王ってマジ?」
「掲示板でももう書き込まれてるみたいですよ」
集団戦、チーム戦、個人戦で勝利を決めたサイバネティック・エルフの王宮騎士は、声に喜びといつもの傲慢さを滲ませながらスクリーンショットを撮った。
「ま? 俺としては? 個人戦の優勝報酬武器アバターが欲しかっただけなんだが?」
「これで新しくギルメンになってくれる人が増えたらいいですね〜」
ざわめくVCで、ユキカゼはこんな時でもギルド運営のことを考えていた。
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