11.総防衛

大急ぎで自陣まで帰ってきたスラストが目にしたものは、残りギルドが全てVanguardのパワージェネレーターに押し寄せている光景だった。


「深追いせず、ジェネレーター付近で固まって排除お願いします!」

あまりにも敵の数が多すぎて、敵を倒すよりも敵に倒される方が早い。


後方から勢いのままに味方に合流したため、手前で敢えなく1デスということはなかったが、どう動いたらいいものか。

単独で飛び出せば蜂の巣となるのは当たり前だが、固まって行くにしても味方の数が少なすぎてどうにもならない。


スラストは盾の影に隠れ、突撃槍でチクチクと刺しては攻撃範囲の外に逃れるヒットアンドアウェイの戦法をとることにした。埒があかないが、この猛攻を耐え抜いて、どこかのギルドに引いてもらうしかないだろう。


20時に始まった集団戦だが、終わるのは23時だ。この時に決着がついていないと全ギルド敗北扱いになる。攻めてきている3ギルドがVanguardを潰せたとして、23時までには勝者を決めなければならないというわけだ。スラスト達は早々に2ギルドを落とし、現在時刻は21時33分。終了までちょうど半分といったところ。おそらく50分か、遅くとも22時10分まで耐え抜けば流れは変わるだろう。


「シャトルランで行きましょう! 生きてる人は隊列組んで突撃で!」

ユキカゼの指示でVanguardの生き残りは隊列を組み、敵の群れを押し返しては引き返し、押し返しては引き返しを繰り返して全員でヒットアンドアウェイの作戦を取った。以前にもやったことがあり、大勢で行ったり来たりするさまからシャトルランと呼ばれていた。

完全に妙なテンションで防衛を続けるVanguard。スラストはまたもや生きているのが不思議なくらいのダメージを負っていたが、奇跡的にまだ一度も死んでいなかった。ここまで来たら終わるまで生き延びようと目標を立てた。



防戦一方のVanguardだったが、攻め方の3ギルドもなかなか決め手に欠けている状態が続いていた。いっときは2割まで削られたパワージェネレーターも6割まで回復している。現在時刻は22時12分、4ギルドも残っているのはさすがに不味い時間に差し掛かっていた。


「人数、少なくなってるよな?」

「『Fine.』が帰っていってる。いけるかもしれない」

スラストと洛叉の言う通り、攻めに来ていた3ギルドのうち、もっとも精鋭の「Fine.」が退却を始めていた。パワーバランスでいえばVanguardに次いで動員が多く質も高いFine.、個人の力はそれほどだが動員数は多いもふもふ、タイマンでは強いメンバーが在籍しているが、今回やる気がないのか数が少ないDii Consentesの順だ。


人数が減ったことで跳ね返しが容易になった。ジェネレーター回復に加えて、どこかを攻めることも可能だろう。


「戦力的に、うち落としたら次攻められんのはFine.だしな。もふもふとディーは多分最後タイマン狙いで共闘してる。……ユキカゼさん、どこ攻めますか?」

「取り敢えずジェネレーターの残りが少なすぎだから、防衛陣は敵排除とジェネレーター回復で半々ですね。あ、退却したFine.は確かジェネレーター10割だったと思うんで、どっちか攻めてるか偵察してきますね。どっちにしろもふディーが攻撃しはじめたらFine.攻め便乗で!」

攻撃に出せる人数は少ない。1ギルドが退却したとはいえ、倍近い人数を押し返し続けているのだ。あともう1ギルドが脱落した時に始まるであろうダメージレースを制するためにも、防衛陣にはあと少しの辛抱だ。


スラストはユキカゼについて行き、Fine.の様子を偵察することにした。

別に2人で偵察に向かう必要性は全くないのだが、道中で集団に襲われた時の対策としてである。


「今一番避けたいのはFine.が再び攻めてくることです。それを避けるには、ここで落とし切るしかないですね」

「フィーネだかファインだかわからんが、なんで退いたんですかね? 3ギルドで落とし切れないうちを、2ギルドで落とし切れるのかよ」

「フィーネですね。落とし切れないからこそ、だと思いますよ。Fine.はもう勝ち筋ほぼないですから。時間切れになるよりは、もふもふとDii Consentesがうちを攻め続ける方に賭けたんでしょう」

ユキカゼの読みは実際当たっていた。他2ギルドの共闘はなかなか足並みが揃わないようで、Fine.の陣地にスラストとユキカゼが偵察で到着しても、同じように遠方でうろついている。1パーティーくらいはいるようで、遠距離職でちょっかいを出しているようだ。Fine.の人数は少ない。おそらく共闘2ギルドの攻めに行っているのだろう。


「これはうちが攻めるの待ってるんじゃないすかね。うちもワンパ送ります?」

「そうしましょう。攻撃部隊ワンパFine.まで来てください!」

Fine.攻めで固まる方針だったが、時刻は既に11時30分。ここまで来ると時間との戦いだ。


全員敗者になるよりは、負けても決着がつく方がいい……そう考えてくれるプレイヤーが多ければ楽なのにとスラストは思った。

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