7.集団戦演習

集団戦は100対100の大規模なPvPのことであり、これがギルド対ギルドだとGvGと呼ばれている。

パワージェネレーターと呼ばれる施設をお互いで破壊するというのがルールだ。

ちなみに回線が悪かったりマシンスペックが足りなかったりするとカクカクでプレイするどころではなくなる。


楽しいと思うことをやってこいと言われたスラストは、闘技大会に向けてVanguardで集団戦の演習に参加していた。試練の洞窟で新調したタワーシールドを構え、他の盾職と一緒に戦列を組んでいる。

場所はVanguardの拠点がある惑星の開けた場所だ。やや足場が悪くぬかるんでいる。


「20時になったんで、演習やっていきますね。部隊ノお願いします」

頭に魚(しかも顔は正面ではなく上向きだ)のマスクを被り、白の軍服を着たスペースノイドのVanguardマスター、ユキカゼが指揮官も兼ねて指示を飛ばす。


「攻撃ノ」

「防衛ノ」

「攻撃の」

チャットで次々と挙手の「ノ」がされていく。

スラスト達盾職は最前衛を張るため攻撃部隊に入る。変に音が入り込んでも悪いのでマイクを切り、ミュートにした。


『スラスト、あの名乗りはやらないの?』

同じく盾職で攻撃部隊に入っている洛叉がスラストに個人チャットで話しかけてきた。名乗りがなんなのかわからず、スラストは首を傾げる。


『あの名乗りってなんだよ』

『覚えてない? 『最強の盾はこの俺だ!』って』

『やるに決まってる。誰が最強なのかわからなくさせないようにな』

なんだ、別に名乗りでもないただの挨拶だろう。

以前Vanguardに所属していたときもよくやっていたことだった。


『いや、マジでやるのか。俺は冗談のつもりで』

『本気だ』

大真面目だ。スラストは闘技大会の本番でも当然宣言しようと考えていた。


Vanguardのギルドメンバー100人は、現在50人と50人に分かれて相対している。

総指揮はマスターのユキカゼで、その指揮に合わせて双方が激突するというのが今回の演習だ。


盾職は相手のパワージェネレーターを破壊する担当と自軍のパワージェネレーターを守護する担当の二手に分かれて行動する。

アタッカーは回復をもらえないので死亡とリスポーンを繰り返しながら、一人でも多く相手の命を奪うのが仕事だ。

ヒーラーは主に盾職の回復を担うが、自身に回復をかけてアタッカーや盾職のような動きをするプレイヤーもいる。

 PvPではあるが、盾職はプレイヤーには倒されることもないがプレイヤーを倒すこともできないという微妙な位置だったので「ゲームバランスの犠牲者」とも呼ばれ、ほぼロマン職と化していた。アタッカーは耐久力が低く、回復させても仕方がないので盾が減ると同時にヒーラーも減り、PvP人口の八割はアタッカーともいわれているのが現状だ。


集団戦の勝利の鍵は攻撃と防衛のバランス配分にあるが、戦いは数なので、そもそも動員数で勝率が左右されることもある。

出来損ないの格闘ゲームと呼ばれている一対一のPvPよりも更に出来が悪いシステムだったが、ユキカゼをはじめ集団戦愛好家の数は少なくない。


Vanguardの戦法は、盾職でひたすら前線を押し上げて攻め続けるというものだった。

スラストは相手方の前線を縦横無尽に駆け回り、敵パワージェネレーター付近で、剥がそうとする相手を新調したタワーシールドで盾職もアタッカーもヒーラーも関係なく薙ぎ倒していく。かといって単独で突っ込むわけではなく、きちんとラインを組んでから突撃し、囲まれたら退却するというのを繰り返していた。


他の味方の場所を把握し、敵の集合に対しては更に多数で対抗する。無理してコンボを入れず、攻撃が集中しないように絶えず攻撃の起点位置を移す。もちろんスキルのCTには最大限の注意を払う。


プレイスタイルでは不良プレイヤーとの呼び声高いスラストだったが、戦闘に於いてはこれ以上ないほど基本に忠実で、優等生だった。




「聞いてたより慎重なんですね。なんか、もっと突撃! 俺に続けェ! みたいなイメージありました」

「なんで俺がそんな野蛮なイメージになってるんだよ? 俺は究極に紳士なんですが」

たった今敵のテンペストアローをくらい戦闘不能になった、見知らぬ攻撃部隊のプレイヤーが意外そうにスラストに言った。心外だ。俺はそんな野蛮人じゃないし、勝つ為の動きしかしない性格だと思っているのだが。一人で飛び出して行っても犬死にするだけだってことは初歩の初歩、わざわざ教えられるまでもないことだ。


盾職にしては異常なキル数を叩き出しながらも、未だ一度も倒れないスラスト。ログを見ると、洛叉などもそれなりに奮戦しているが、やはり同格である自ギルドのメンバーに対してはなかなか数字が稼げないようだ。もともと盾職は数字を稼ぐものではないのだが。


「最強の盾は、この俺だ!」

勝利後、スラストはニヤつきながら宣言し、両手にそれぞれ持つ巨大武器をジャングルの空に掲げるが、誰も突っ込みを入れない。スラストの発言が寒いからとか痛いからではなく、その場の誰もが納得していたからだった。

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