夢海の朧

水沫は幽寂に

第1話

 ある海辺の町に1人の男がいた、その男は人とは違った...夢を忘れず鮮明に覚えていると言う、ならば遥昔に見た夢を色褪せながらも男の記憶の奥底に霞のように揺蕩っているのだろうか

その男の記憶の奥底に色褪せながらも消えずにいるモノはいったい

...泡沫うたかたの如し物語を..今...




そこは名もない海岸...弧を描く砂浜

天高く浮かぶ月..揺蕩う雲...

静寂に包まれた中

さざなみがもの悲しい音を響かせている

満月が水面みなもに月をうつす...

それは波に揺られ形を変えながらも消えることなくそこにある

時代が移ろい人の記憶から消えようとも

雲が月を隠し、水面の月が消えても

人がそらを見上げる様に風が雲を散らす様に水面の月が波に攫われようと再び現れる様に...そこに確かに存在する泡沫の月

しかし触れる事叶わずただ....眺めることしか出来ない、たとえそこに月の道があろうとも...辿り着くことは無い....だからこそ人は儚くも美しい幻想を求めるのだろう、届くことは無いと知りながらも手を伸ばす...

故に...ここに1人の男が来るのも、また...決まっていたのか...それは分からない...だが

あの、妖しくも美しい泡沫の月は...

その答えを知っているのかもしれない......


男の中の色褪せた記憶が描く、不思議な夢の欠片....これはその1片である。


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