第一話 騒々しい朝
目が覚めて顔を上げると、まず目にしたのはPCの画面だった。
画面に表示されているのは、徹夜でプレイしていたゲームのホームメニュー。
どうやら寝落ちしてしまったらしい。
俺は背もたれに寄り掛かりながら欠伸をし、デジタル時計に目をやる。
珍しくも六時ジャストであった。
「今日はいつもより早く起きちまったか」
俺は背伸びをし、身体の節々を刺激すると、椅子から立ち上がった。
俺視点から見て、右側に天井くらいまでの高さの本棚、左側には紺色のベッドと白い引き出し、そして全身を映せる大きさの置き鏡が、壁に寄り添うように設置されている。
そして、真正面にはクローゼットとドアがある。
床は焦げ茶色のカーペットが敷かれている。
これが今現在の俺、光剣寺ミツキの部屋である。
俺は紺色のジャージをベッドの上に脱ぎ捨て、制服に着替える。
着々と着こなしていき、最後に鏡の前で首にネクタイを巻いていく。
「うっし」
そう言って手に腰を当てると、ちゃんと仕上がったことを確認した。
一応ここで自分の顔も見てみることにした。
「・・・・・・」
一言で言うなら、本当に無愛想な顔をしている。
髪はしばらく切っていないため、目が隠れるスレスレのところまで伸びきっている。
PCゲームのやりすぎのせいか、日に日に視力が落ちて目付きが悪くなっている。
まさしく陰キャって感じの顔立ちだ。
自分が望んでそうなったとはいえ、流石に溜息を付いてしまう。
コンコンッ
ドアからノックする音が聞こえた。
「ミツキー、朝だよー」
ガチャッとドアが開く。
すると、自分と同じ高校の制服を着た少女が、部屋に入ってきた。
体型は極めてほっそりとしている。
肌は白く、童顔で瞳は宝石のルビーのように綺麗で透き通っている。
髪は銀色で、腰の位置まである。
まるで西洋の人形のようなその少女の名は時島ユイ。
この家の長女で、俺のクラスメイトだ。
「あれ?ミツキ今日は早いねー、珍しい」
ユイは少し驚いた表情で俺の顔を覗く。
「・・・ああ、まあ」
俺は僅かに口角を上げて、どこかぎこちない返答をする。
ユイはそんな俺に対し呆れたのか、溜息交じりに答える。
「あのさ、もう少し愛想よくした方が良いんじゃない?でないと、また中学の二の舞になっちゃうよ?いいの?」
「余計なお世話だよ、お前は俺のオカンかよ」
「な!?誰がオカンよ!こっちはあんたのことを心配して」
「はいはい、朝から元気で何よりです」
「んんんっ!?」
ユイは真っ白な頬を赤く膨らませ、睨んできた。
「・・・・・まあいいよ、それで。どの道困るのはミツキだしー、わたしには関係のないとだしー、本当に知らないからね?本当だよ?本当・・・・」
あ、これ、完全に挑発に乗ってる奴だ。
見ていることらからすれば、結構可笑しな光景で、つい鼻で笑ってしまう。
「な、何よもう!とにかく、早く降りてきて!朝ご飯冷めないうちに」
そう言い残して、ユイは部屋から出ていった。
ガチャッとドアが閉まる音がすると、俺はほっと息を吐いた。
まったく勘弁してほしいよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺は部屋から出て階段を降り、リビングに向かった。
覗くとダイニングテーブルの周りにユイとその兄、時島ツバサが向かい合わせになって椅子に座っていた。
ツバサは大きな欠伸をして、
「ったく、怠いな。何でこんなにこう朝って苦手なんでしょうね?」
テーブルに頬杖を突き、ユイに対してぼやいた。
「そんなの兄さんが毎日夜更かししているからでしょ?自業自得よ」
ツバサに対して正論を言うが、その発言は俺の心にグサッと刺さった。
まるで自分に言われているみたいだ。
「しょうがねぇだろ?最近買ったゲームが面白くてよ。仕方ない訳ですよ、はい」
「減らず口ね」
ああ、確かに減らず口だ。
そんな兄妹の他愛のない会話に、俺はクスッと笑ってしまう。
それに気付いた兄妹は俺の方に視線を向けてきた。
「おう、来たか我が義弟よー、待ちくたびれたぞー」
最初に発言したのはツバサで、普段呼ばないような呼び方で歓迎してきた。
「そんなに待ってねぇだろ」
俺は椅子を引き、ツバサの隣に座った。
すると俺とユイ、ツバサはテーブルの上に置かれた朝食を食べ始めた。
俺はこんがり焼けたトーストをかじりながら、チラッと視線を前に向けてみた。
「どうしたの?」
ユイはトーストを手に、首を傾げて聞いてきた。
「・・・・いや、ただ前の椅子が空いているのが、少し寂しいなぁって」
そう半年前までもう一人、この兄妹の母親がいた。
ただ今は仕事の都合で、海外に出張に出ている。
「いや寂しいって、お前がそれ言っちゃう?まあ確かに寂しけどさー」
ツバサはプレートに盛られたサラダを口の中に頬張りながら答える。
「まあそうよね。また帰ってきた時のことも考えてわたし達ももっとしっかりしないと・・・・・・特に兄さん!」
そう言ってユイはツバサに指を差した。
「・・・・あーやっべ、俺そろそろ行かねーと遅刻するわ」
ツバサはわざとらしく慌てると、朝食を口の中に詰め込みだした。
そして、口いっぱいになったところをコーヒーで流し込み、玄関に駆け出していった。
その一部始終を見て俺とユイは、口々に呟き出す。
「逃げたな」
「逃げたね」
「あいつぜってぇ下手したらヒモになるな」
「ミツキも心配できるほどの立場じゃないと思うよ」
「えっ?」
キョトンとする俺を他所に、ユイはテーブルに置かれてある食器を片付け始めた。
「ミツキもさ、会話苦手とか言ってるけど割とわたし達と話せるようになってるじゃん。まあそれでも無愛想でからかったりするのはムカつくけど。少しはクラスのみんなと話してみたら?」
「余計なお世話だよ」
俺も食器を片付けながらそう吐き捨てる。
「そうかな?でもさ」
「もういいだろ、俺なんかにかまってたって何も良いことないって」
「いやでも、そういう訳には・・・・」
「それとも、俺に対して何か特別な理由でもあったりするのか?」
冗談でそう聞きながら流し台に自分のマグカップを置いた。
「・・・・・・、ん?」
その沈黙に違和感がした俺は顔を上げた。
そこには真っ白だった肌を真っ赤に染めたユイが、プルプルと体を震わせていた。
「・・・・えっとあの、ユイさん?」
俺は予想外の反応に動揺がどうしても隠しきれなかった。
「・・・・バッカじゃないの!?」
早朝、少女の甲高い叫び声が、家中に響き渡った。
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