《新改訂版》ソーサラーズ・サーガ~不愛想な魔術師の異世界大戦記~
相本テイル
第一章 再起
プロローグ
俺は必死だった。
目前に迫り来る
その度に真っ黒な血飛沫や肉片が足元で転がっていくのが視界に入る。
だがいくら斬り続けても、
仲間が死に行く様に目もくれず、怯える素振りすら見せずに奇声を上げて飛び掛かっているだけだった。
どうやら
そもそも知能があるかどうかも疑わしいくらいだ。
それにしてもこの
あれから一向に減る気配がない。
それどころか増え続けているような気がする。
一体いつになったら終わるんだ!?
うじゃうじゃと湧いてくる
即死する奴もいたが、中にはそうならない奴もいた。
傷口から噴き出す黒い鮮血を押さえながら悶え苦しむ。
そして息絶えると、瞬く間に腐敗しボロボロに崩れて、大気に散っていく。
最初は不気味に感じた光景も、今では何も思わなくなっていた。
いや、正確にはそんな余裕がなくなっていた、と言った方が正しいだろう。
長時間の戦闘による、疲労やダメージが蓄積され、最早満身創痍の状態。
他のことに気を遣っている程の思考は働いていなかった。
「はあぁぁぁっっっ!」
奇声を上げながら剣を振り回し、魔物を一匹、また一匹と殺していく。
黒い返り血を全身に浴びながら、それでも動じることなく、只管動く。
最早呼吸すらまともにできず、意識が朦朧としていき、目の前が真っ白になっていた。
それでも俺は動くのを止めなかった。
目が見えなくなろうと、耳が聞こえなくなろうと、手足が千切れようと。
一匹残らず殲滅するまで止まらないだろう。
だが、身体は意思に反して、限界に達していた。
胴体を捻った瞬間、その場でバランスを崩し、地面に倒れ込んでしまった。
「ぐっ!」
両肘から僅かに痛みを感じる。
すぐに立ち上がろうとしたが、もう遅かった。
「ひっ」
俺は反射的に顔を伏せた。
そして、茶色い土の地面は、一瞬で赤黒い血の色へと染まった。
だがその血は俺のではなかった。
その証拠に痛みを感じていない。
多分、今俺の背中を覆い被さっている男のものだと思う。
男はそのまま俺の真横に仰向けで倒れ込んだ。
俺は顔を横にし、倒れている男に視線を向ける。
そして一瞬で絶望した。
震えながら唇を動かす。
「父・・・さん・・・・」
その男、俺の父親の服は多数の獣に引き裂かれたような痕と黒い返り血でボロボロになっていた。
そして無数に抉られた傷に背中からは大量の赤い鮮血が溢れ出し、地面をその色で染め上げていく。
父は俺に視線を向け答えた。
「・・・・大丈夫か」
弱々しく口を動かす父の姿は、俺の心を強く締め付ける。
「父さん・・・父さん・・・死なないで」
俺は何もできず、泣きじゃくることしかできなかった。
そんな俺の頬を、傷だらけの手でそっと触れながら話しかける。
「・・・・男が泣くんじゃねぇよ、・・・バカ」
父の大きな手が冷たくなっていくのを感じる。
駄目だよ・・・・・・そんなの・・・嫌だよ・・・・・・
ボロボロと大粒の涙を溢していく俺。
すると、父は零れる涙を親指でそっと拭うと、優しく微笑みかけてきた。
「いいか・・・・・お前は・・・・・・・」
直後、父は息を引き取った。
俺は父の死に顔を見て、父を殺した残忍な
俺にもっと力があれば・・・・。
「・・・・殺してやる。お前ら一匹残らず、殺してやる!」
この後どうなったかは全く覚えていない。
後から聞いた話、
一緒に討伐していた連中から口を揃えて称賛してくれた。
でもどこか気を遣われているような気がした。
それもそうだ、父さんは死んだのだ。
自分を犠牲にして、俺なんかを守るために。
結局、父さんを、大切な人を守れなかった。
俺は父を救うことができなかった罪悪感と、自分の無力さに絶望した。
きっと自分と一緒にいる奴は不幸になると思って。
そして誰とも関わらず、孤独に生きていくと心に誓った。
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