第26話 たより

 馬車のなかでドローンの操作に夢中になるヴァイオレット。

 上空からの映像がよほど面白いのか、襲撃後も度々ドローンを操作させて欲しいとねだられた。


 馬車の扉を叩く音がしたので窓を開けるとレイチェルが強ばった表情で言う。


「上空をピーちゃんが旋回しています」


「ありがとう」


 アリシアからの伝言だ。


 俺は窓の外に片腕を出してピーちゃんを迎える体勢を取る。

 すると、俺の指に青い小鳥が舞い降りた。


「ヒッ!」


「大丈夫よ、いい加減になれなさい」


 顔を青ざめさせて反対側の扉にへばり付いた侍女にヴァイオレットが涼しい顔で言った。

 レイチェルとノエルでさえ怖がっているのだから侍女の反応は無理もない。


 むしろ平然としているヴァイオレットの肝が据わっているのだが、本人はそのことに気付いていないようだ。


「内容の如何に関わらず後で教えてね」


 ピーちゃんの脚に取り付けられていた小さな筒から手紙を取り出そうとしている俺にヴァイオレットが言った。

 それは取りも直さず、この場で手紙の内容を口にするな、ということだ。


 彼女付きの侍女であるコニーにもよけいなことは知らせたくないということなのか、コニーさえも疑っているのか。

 いずれにしても慎重なのはいいことだ。


「手紙は後で読んで、今夜にも内容を報告に行くよ」


「お願いね」


 俺は取り出した手紙に目を通すことなく異空間収納ストレージのなかに収納した。

 そしてピーちゃんの足元に木の実を撒くと直ぐについばみ始める。


「コニー、すまないが少しの間辛抱してくれ」


「はい……」


 コクコクと小刻みにうなずいた。

 馬車に揺られながら異空間収納ストレージ内の手紙に目を通す。


 これなら手紙を誰かに盗まれたり、誰かに盗み見られたりすることもない。

 手紙に書かれていたのはガイとロドニーからの報告だった。


 一つは、メイドのドナが接触したチンピラのその後の行動だ。

 ドナが接触したチンピラはジレッティファミリーの残党だった。


 その残党がさらに接触した先はタルナート王国からカラムの町へと入ってきた行商で、本拠地は案の定タルナート王国だ。

 行商の規模は馬車一台と小さく、誘拐した子どもを連れだしている様子はなかったと手紙には書かれていた。


 無理はするなと言っておいたのだが……、この報告の内容からするとチンピラを締め上げ、行商とも接触してるよなあ……。

 後でピーちゃんに持たせる返信で厳しく書いておくとしよう。


 もう一つは混入された毒薬の調査結果である。

 ディールズ医師がヴァイオレットに同行するので、こちらはセシリアおばあさんにお願いしてあった。


 結果はディールズ医師の見立て通りマリーカの毒だった。

 マリーカの毒は即効性の高い毒だが対処が早ければ助かる。


 今回のように何度もマリーカの毒を使われれば当然解毒薬も用意しておく。

 解毒薬が近くにあったり水魔法の使い手が側にいたりすれば助かる確率は跳ね上がる。


 ここまでは予想通りだったのだが、セシリアおばあさんの調査結果にはもう一つの毒薬が混入されていた、とある。

 デルス草と呼ばれる植物の根から採取される毒で検出が非常に難しく体内に蓄積する。


 そして一定以上の量が蓄積されると幻覚や自傷行動を引き起こす。

 蓄積量がさらに増すと心臓発作をおこすのだと書かれていた。


 さらに解毒薬の調合方法も書かれている。

 本職の医師が見抜けなかったことを見抜くとはさすがセシリアおばあさんだ。


 頼りになる。

 問題はデルス草の毒が本命だった場合、ヴァイオレットが既に摂取している可能性があるということだ。


 念のためトレーダースキルで解毒薬を取り寄せておくか。

 トレーダースキルのパネルを操作しようとしたそのとき、


「叔父が門の外まで出迎えているわ」


 ヴァイオレットがドローンからの映像を俺に見せた。

 のぞき込むと門付近の全景から、門の外で馬から下りて待っている五人の騎士へとズームされる。


「中央の薄紫色の髪をした騎士が叔父のルパート・ハントよ」


 昨年他界したヴァイオレットの父親の弟で、五年前に家臣であるハント家へ婿入りし二年前にハント騎士爵家の家督を継いでいた。

 そして、ドネリー子爵家の第一位の継承権を持っている。


「若いな」


「ダイチと同じ二十二歳よ」


「髪の色のせいもあるのかな? どことなくヴァイオレットと雰囲気が似ている気がする」


 端正な顔立ちの好青年だ。

 ドローンの映像にも関わらず、その鋭い眼光と立ち姿から不思議と覇気を感じる。


 ブラッドリー小隊長と並んだらさぞや女性が騒ぐことだろう。


「お父様の若い頃にそっくりよ……」


 しまった、迂闊だった。


「気にしなくてもいいわ」


 顔にでたのか、俺が何かを言う前にさらりと流された。


「今夜は叔父さん、ハント騎士爵のところに泊まるのか?」


「叔父の屋敷に泊まりたくないからこんな大人数で来たんじゃない」


 そうだったのか。

 やはり警戒をしていたんだな。


「あたしと身辺警護の護衛だけでも泊まらないかと言ってくると思うけど、キッパリと断るつもりよ」


 嫌っているのは十分知っていたが……。


「そこまで嫌っているのかよ」


「あらー、襲撃があったら迷惑がかかるでしょう」


 笑顔で心にもないことを口にした。


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        あとがき

■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有


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