第23話 まちぶせ

 ニケの反応とヴァイオレットが操作するドローンからの映像を見比べると、おおよその襲撃ポイントが予想出来た。

 このまま街道を進むと両脇に広がる平原が途絶えて森へと変わる地点がある。


 目測で十キロメートルに届かない距離だろう。

 接敵まで一時間弱……。


 先に行って叩いておくか。

 俺は反対側の窓を開けてノエルを呼んだ。


「はい」


「すまないが、俺の代わりに馬車のなかで警護を頼む」


「分かりました」


 ノエルの返事に続いてヴァイオレットが不思議そうに聞く。


「どうしたの?」


「ドローンの映像にも映っていたが、もう少し進むと街道の両脇に森が広がっているから先行して様子を確認しておきたいだけだ」


 特に心配する必要はない、いつもと変わらない口調で伝えた。


「この辺りは滅多に魔物なんて出ないわよ」


 ダイチも心配性ね、と笑う。


「少しは働かないと他の護衛から恨まれそうだからな」


「様子見で先行するだけで働いたような顔をしたら、そっちの方がなにを言われるか分かったものじゃないわよ」


「あとで他の随行員には酒でも差し入れをするよ」


 俺はそう言いながら走行中の馬車の扉を開けた。

 すると車輪の音と土煙が車内に流れ込む。


 同時にノエルが飛び込んできた。


「失礼いたします」


「いらっしゃい」


 挨拶をするノエルにヴァイオレットが笑顔で答えた。


「ノエル、後は頼む」


「はい」


「ミャー」


 ノエルが腰掛けるとニケがすかさず彼女の膝に飛び乗る。


「ニケも頼んだぞ」


 俺はそう言い残して馬車からノエルが乗っていた騎馬へと飛び移った。

 突然飛び乗られて驚く騎馬をなだめているとレイトン隊長が騎馬を寄せてきた。


「どうした?」


「先行して様子を確認してこようと思います」


「君の役割は身辺警護で、斥候は我々の役割だったはずだが?」


 自分たちの領分にまで土足で踏み入るな、とでも言いたげな口調と顔だ。

 あからさまに嫌な顔をしている。


 そりゃあ、いままで最も身近でヴァイオレットを警護してきた彼らを差し置いて、どこの誰とも知れない連中――、俺やレイチェル、ノエルが身辺警護に就くのだから面白くないのは理解出来る。

 加えて、彼女が口にするものまで俺が用意をする徹底ぶりだ。


 さぞや悔しい思いをしていることだろう。

「念のため見てくるようにドネリー子爵に言われたんです」


 そちらの立場も分かるが自分の立場も理解して欲しいとごまかした。

 レイトン隊長がこの場でヴァイオレットに確認したとしても、彼女なら話を合わせてごまかすくらいの機転は利かせてくれるだろう。


「分かった。では、私も同行しよう」


「え?」


「そちらの立場を理解したのだから、私の立場も理解してほしいものだな」


 レイトン隊長がニヤリと笑った。

 万が一、先行した俺が何かを発見してもレイトン隊長が同行しているなら面目躍如ということか……。


 何ともくだらないプライドだ。


「分かりました、それでは一緒に行きましょう」


 俺が騎馬の速度を上げるとレイトン隊長も速度を上げた。

 草原と森の境目が近付くが、俺には何も分からない。


 もしかしたら境界付近じゃなく、もう少し先へ進んだあたりで待ち伏せをしているのだろうか?

 ニケのありがたさを痛感する。


 少し突いてみるか。


「俺はこのまま街道を駆け抜けますが、左右の森林に襲撃者や魔物が潜んでいたら危険なのでレイトン隊長はこの辺りで待機をお願いします」


「貴様が指示を出すんじゃない!」


 騎馬の速度を上げた俺を追うようにレイトン隊長も速度を上げた。


 予想はしていたが、困ったものだ。

 どうなっても知らないからな。


 街道を駆け抜けながら左右に広がる森に向けて、異空間収納ストレージから直接幾つもの爆竹を投下する。

 爆竹の爆ぜる音が森のなかに響き渡る。


「何だ!」


 突然、爆発音にレイトン隊長が驚きの声を上げ、彼の操る騎馬が後ろ足で立ち上がる。

 しかし、驚いた者たちは他にもいた。


「攻撃魔法か?」


「バレたぞ!」


「こうなったら正面からやるぞ!」


 街道の左右に広がる森から大勢の襲撃者たちが現れた。


 おいおい、少し多すぎないか……?

 ざっと見渡しただけでも三十人以上いる。


「レイトン隊長は戻ってこのことを知らせてください!」


 しかし、返事はなかった。


 突然のことに思考が停止しているのか、次々と姿を現す襲撃者たちのことを呆然とみているだけだった。

 レイトン隊長を守りながら戦うのは少々骨だが、彼も魔装を使えるのでそう簡単にはやられないだろう。


 その瞬間、俺に向けられて十本近い矢が放たれた。

 二本が騎馬に命中し、残りは全て俺を捉えた。


 結構、良い腕をしているじゃないか。

 レイトン隊長に視線を走らせると、撃ち込まれた矢の数こそ少ないものの似たような状況だった。


 魔装を展開していたようで矢を弾いている。

 俺は襲撃者たちに向けて宣言する。


「敵対行動と認識した。これより迎撃をさせてもらう」


「二人とも魔装を使うぞ!」


「後ろのヤツは警備隊の隊長で、手前のヤツは新しく雇い入れた護衛だ」


「隊長は火魔法を使うぞ、気を付けろ!」


 レイトン隊長の情報どころか俺の情報まで掴んでいるのかよ……。

 絶対に盗賊じゃないだろ、お前ら。



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        あとがき

■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有


2022年2月27日発売の「電撃マオウ4月号」よりコミカライズ連載開始いたします


漫画:隆原ヒロタ 先生

キャラクター原案:ぷきゅのすけ 先生


原作ともどもよろしくお願いいたします

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