第46話 帰路

 騎士団や衛兵を連れて戻ったガイたちと交流したのは翌日の昼過ぎだった。

 合流後は遺体を発見した場所への案内と、他のパーティーの捜索に同行をしながらの事情聴取となった。


 俺やアリシア、リチャード氏、メリッサちゃんは厳しい事情聴取があるだろうと予想していたが、トムとジェリー、スハルの裔の四人は大事件を解決したことで褒められると思っていただけに事情聴取には不満顔だった。


「大事件を知らせたのに、これじゃ俺たちが犯人扱いじゃないですか」とはガイの愚痴である。


 クレアちゃんの両親の殺害事件はもちろん、隊商の襲撃事件も計画の内だったのだが、それについては隠した。

 計画に含まれていただろう暗殺のターゲットが俺とアリシアだったからだ。


 そのことを話せばカラムの町での事件やその背後関係など、ノイエンドルフ王国の騎士団が調査している事件について触れなければならなくなる。

 その判断を下すには俺やリチャード氏には荷が重すぎた。


 とはいえ、カラムの町に戻ったらセシリアおばあさんとブラッドリー小隊長には、今回の事件のあらましを説明することになる。

 それを考えると事情聴取など、どうと言うこともなかった。


 ダメ元で、捜索中に遭遇した魔物を狩る許可が欲しい、と頼むとあっさりと許可が下りた。

 お陰でブラックタイガーやキングエイプの群れと遭遇し、結構な数の無属性の魔石を手に入れることが出来た。


 そして嬉しい誤算がマンティコアである。

 マンティコアから採取出来た魔石は、ブラックタイガーよりも数段価値が高いと思われる無属性の魔石だった。


 捜索の結果、無事に合流できた冒険者パーティーはリディの町を拠点としている二組だけだった。

 結局、十日間で戻る予定を大幅に超過。


 騎士団とともにリディの町に戻ったのはリディの町を出発してから十五日後のことだった。

 町に戻ってからも事情聴取は続き、解放されたのはさらに二日後である。


 解放されて真っ先に向かったのは商業ギルド。

 町に戻って直ぐにクレアちゃんのことを含めて騎士団から事情説明もされていたし、俺自身事情を説明する手紙を出している。


 それでも一時は他国の重要顧客――、アリシアから頼まれた子どもが誘拐されたのだから大騒ぎとなっていた。

 直接赴いて改めて謝罪をした。


 ◇


 帰路に就いたのは翌日。

 馬車のなかでアリシアと二人きりになった。


 気まずい雰囲気が流れる。

 クレアちゃんとの戦い以降、まともに会話をしてくれない。


 反応を見る限り、怒っていると言うよりも恥ずかしくてまともに顔を合わせられないというのが正解な気がする。


「アリシア」


「なん、です、か?」


 頬を染めて目を合わせようとしない。

 あれからもう十日以上も経つというのにこの反応である。


「その、なんだ……。ピーちゃんに攻撃をしてもらうためとはいえ、デリカシーのないことを言ったと反省している」


「な、なんの話ですか?」


 笑顔がぎこちない。

 何ごともなかった振りを決め込んでいるつもりなのだろうが失敗している。


 見えたことを正直に話すか……、脚しか見えなかったとごまかすか……、見えなかったと嘘を吐くか……。

 三択か……。


 決めた!

 誠実であろう!


「魅力的だったよ」


「……!」


 精一杯の笑顔で言ったのだが、返ってきたのは声にならない叫びだった。

 涙目で両手を意味もなく振り回して口をパクパクとさせている。


 記憶が鮮明に蘇ったのか半ばパニック状態である。

 選択を誤ったか?


 いや、後戻りは出来ない。

 アリシアを軽く抱き寄せて耳元でささやく。


「下心なんてなかった。視線が行ってしまったのはアリシアを心配してのことなんだ。信じてくれ」


「そ、それは……、信じて……います」


 相変わらず目を合わせようとしないが、何とか会話になりそうだ。


「ありがとう」


「ずるいです」


「ごめん」


「別にダイチさんが謝ることではありませんから……」


「どうしたらアリシアの笑顔が見られるかな?」


「……」


 驚いたようにこちらを見た彼女と目が合った。


「俺はアリシアの笑顔が見たいんだ」


「…………一緒に……でくれるなら許してあげます」


「ん?」


「古代ノルト語の魔法書を……、一緒に読んでくれるなら……、許します」


 そんなことでいいのか。

 俺は思わず内心で吹きだしてしまった。


 アリシアがポツリポツリと続ける。


「読むだけじゃなくて……」


「読むだけじゃなくて?」


「古代ノルト王国の錬金術や魔術の研究も一緒にできたら嬉しいな、と」


 俺に錬金術のスキルはないが、知識として学ぶ価値はあると思っている。まして、無属性魔術となればなおさらだ。


「分かった」


「本当にいいんですか……?」


 俺のことを上目遣いでのぞき込む。

 その仕種とはにかむ笑顔に思わず心臓の鼓動が速まった。


「帰ったら一緒に勉強しよう」


「いまからです」


「え?」


「やらないといけない事はたくさんありますから、いまから始めましょう」


 いつものアリシアの笑顔が戻ってきた。


「ここで?」


「移動中の馬車のなかなら誰にも聞かれないから大丈夫ですよ」


 そういうことを心配しているんじゃないんだが……、まあ、アリシアに笑顔が戻ったからいいか。


「分かった、それじゃ始めようか」


「はい」


 古代ノルト語の本を抱きかかえたアリシアが屈託のない笑みで返事をした。



」」」」 第三部 完結 」」」」」




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      あとがき

■■■■■■■■■■■■青山 有


本話を以て第三部完結となります。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

第四部は二日間ほどお休みを頂き、金曜日から投稿を開始する予定です。

第四部もどうぞよろしくお願いいたします。


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