第27話 手紙

 冒険者ギルドの職員とダグラスたちからの情報収集を終えた俺たちは町中をブラつきながら魔術師ギルドを目指すことにした。


「ミャー」


「ピーちゃんがいなくてつまらないの?」


 俺の胸元から脱力したように顔と前足を投げだしているニケをアリシアがのぞき込む。


「ミャー」


「ごめんなさい。ピーちゃんはいまお食事中なの」


 食事中といっても特別にエサを食べさせているわけではない。

 放し飼いだ。


 お腹が空くと何処へともなく飛び去り、腹を満たして帰ってくるのだという。

 その間、なにを食べているのかはアリシアも知らない。


 正確に言うと何をしているのかも知らなかった。


「食費のかからない従魔ってのはいいですね」


「お家にいるときはちゃんとご飯をあげていますよ」


 食事を与えていないような言い方をするロドニーに、少し頬を膨らませたアリシアが即答した。

 ロドニーが「すみません」と謝りながら聞く。


「普段は何を食べるんですか?」


「穀物類や木の実を食べることが多いですよ。たまに果物なんかも食べます」


「へー……」


 ロドニーが意外そうな顔をした。

 肉食系を想像していたな。


 気持ちは分かる。

 俺もピーちゃんの食事するところを初めて見たときは驚いた。


 リンゴに似た果物を食べていたのだが、果実よりも種の方を好んで食べていたように見えたのを憶えている。


「美味そうな匂いが漂ってきた」


 肉の焼ける匂いを敏感に感じ取ったロドニーが串焼きを売っている露店を真っ直ぐに見る。


 五感の優れている狼人とのハーフだけあるな。

 五百メートルは離れているぞ。


「若旦那、腹が空きませんか?」


「もう昼過ぎか」


「ミャー」


 ニケも同様に空腹のようだ。


「冒険者ギルドでは思ったよりも時間が掛かってしまいましたから、お腹が空くのも無理はありませんよ」


「ニケにも食事をさせてやりたいし、どこか落ち着いて食事が出来るところを見つけたら食事にしよう」


「若旦那、落ち着いて食事が出来そうなところってのは店ですか? それとも場所ですか?」


「どっちでもいいぞ」


「ちょっと探してきてもいいですか?」


 ロドニーの申し出を許可すると、「いいところ見つけてきます」と言って駆けだした。

 尻尾を振りながら掛け去る後ろ姿を見ながらアリシアが微笑む。


「あたしたちよりも五感が優れているからよけい辛かったのでしょうね」


「冒険者ギルドでは予定よりも時間は掛かったがその分収穫も大きかった。その代償と考えれば昼食が遅くなるくらいは我慢してもらおう」


「確かに収穫はありましたね」


 ノイエンドルフ王国でも無属性の魔石が高騰していたが、無属性の魔石を保有する魔物が多く生息するリディの町でも予想以上に高騰していた。

 理由を聞いて驚いた。


「まさか、無属性の魔石を持つ魔獣を隠れて乱獲している連中がいるとは思わなかったな」


 厳密な管理ではないが冒険者が採取した魔石も含めて、魔石の流通は商業ギルドが管理をしている。

 冒険者を出し抜いて無属性の魔石を集めている連中がいるため、必要な数が商業ギルドに流れてこないのだ。


「でも、何のために隠れて採取をしているんでしょうか?」


「価格が高騰したところで少しずつ放出するつもりなんじゃないか」


「経済を混乱させるためとか?」


「経済を混乱させるのが目的なら無属性の魔石にこだわる必要はないだろ」


「そう、ですねー」


 何とも分からないことだらけだ。

 だが、俺たちが迷惑しているのは確かだ。


「ダグラスさんたちも迷惑していましたものね」


 アリシアがダグラスたちに同情する。

 無属性の魔石が不足しているので採取依頼がギルドに殺到していた。


 依頼が殺到してもゴートの森の浅い場所ならいざ知らず、森の奥深くとなれば高位ランクの冒険者でもないと生還できるかすら危うい。

 高位ランクの冒険者が高いリスクを負って森の奥深くへ入り込んでいる間に、中位、低位の冒険者が森の浅いところで運良く無属性魔石を手に入れられては面白くない。


 ダグラスたちはそんな理由で俺たちに絡んで来たらしい。

 もっともダグラスが言うには、ゴートの森の奥深くは本当に危険なので、事故を未然に防ぐためにも中位や低位の冒険者を近寄らせたくない、という気持ちもあったそうだ。


「ダグラスたちにも同情するが取った手段が悪手だったんだから自業自得だ」


「ダイチさんのやり方も感心しませんけどね」


 冒険者ギルドで不用意に立ち回りをしたことをとがめられた。


「反省はしている」


「信じます」


 とアリシアが微笑んだ。


「お兄さんに渡してって頼まれました」


 五、六歳の少女が一通の手紙を俺に差し出した。


「俺に?」


「毛の長い子猫を連れているお兄さんに渡してって」


「どんな人に頼まれたの?」


 俺はしゃがみ込んで少女に聞いた。


「綺麗なお姉さんだよ」


「そのお姉さんはどこにいるのかな?」


 女の子は後ろを振り返り、少しの間、辺りを見回す。

 しかし、少女に手紙を渡すよう頼んだ女性は見つからなかった。


「いなくなっちゃった」


 そう言うと、少女は再び手紙を差し出した。


「ありがとう」


 俺は手紙を受け取り、少女に銀貨を渡した。


「え! お駄賃ならもうお姉さんから貰ったから」


「これはお兄さんからのお駄賃だ」


「貰っておきなさい」


 戸惑う少女にアリシアが優しく微笑む。


「ありがとう」


 銀貨を握りしめて走り去る少女を目で追うが、手紙を渡すよう頼んだ女性と接触する様子はなかった。

 開封すると、『無属性の魔石を乱獲している者の背後にタルナート王国』とだけ書かれていた。


 俺は無言で手紙をアリシアに見せた。


「悲しい話を思い出しました」


「俺もだ……」


 俺はシスター・フィオナの事件のことを思い出していた。






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        あとがき

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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました

皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします


作品ページです

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