第44話 ジレッティ・ファミリー、襲撃(1)

 騎士団一個中隊である騎士二十五人と魔術師二十五人の総勢五十人がジレッティ・ファミリーの拠点を遠巻きに包囲していた。


「随分と集めましたね」


「一人も逃がしたくありませんし、救出対象もいます。過剰なくらいの戦力でないと誘拐された子どもたちまで手が回りませんからね」


 ブラッドリー小隊長が答えた。


 事前調査でターゲットとする拠点に五十人弱のジレッティ・ファミリーの関係者がいることが判明していた。

 さらに少なくとも三人の子どもたちが連れ込まれていることも確認している。


「救出対象は、少なくとも三人でしたね」


「ええ。ですが、それ以上の可能性も念頭においてくださいよ」


 他の騎士が本来なら五十人規模の衛兵が欲しいところだとこぼしているのを聞いていた。


「今更ですがこの人数で大丈夫なんですか?」


 本来なら数十人規模の衛兵の応援を頼む規模の作戦なのだろう。

 しかし、今回は衛兵が事件に関与していたので代わりに応援の魔術師の人数を増やしたのは容易に想像できた。


 それでも他の騎士が愚痴っていた人数の半分だ。


「衛兵五十人よりも、アサクラ殿を含めた二十五人の魔術師の方が戦力になります」


「捕獲よりも殲滅が優先ってことですか?」


 取り押さえるための人数よりも、単純に戦力としての火力を優先したってことか?


「最悪は取り逃がすことです」


 そして、俺とアリシアを除いた作戦参加者はそれが出来る者を集めたつもりだ、と静かに言った。

 つまり、俺は殲滅要員としては期待されていないと言うことか。


 どこかホッとしている自分に腹が立つ。


「いざとなったらやりますよ」


「期待しています」


 俺の言葉を軽く受け流すブラッドリー小隊長にこれまで黙っていた魔術師ギルドのアランさんが聞いた。


「余計なことかも知れませんが、小隊長であるブラッドリー様が中隊を指揮して反感を買わないんですか?」


 誘拐事件捜査の担当者でもあり、今回の件に最も深く関わっているということで指揮を任されたと言っていたが、その程度のことで本来の中隊長や先輩騎士たちを差し置いて現場の指揮は任されないよなー。


「買うだろうね。でも、私は気にしないから問題ないよ」


「相変わらず図太いですねブラッドリー様は」


 アランさんが苦笑した。


「アラン、現場で様付けはやめてくれ」


「承知しました」


 ブラッドリー小隊長に軽く会釈をしたアランさんが、俺の隣にいるアリシアをチラリと見て言う。


「アサクラ殿が駆り出されるのは分かりますが、ハートランド子爵の秘蔵っ子であるアリシア様まで駆り出すとは正気を疑います」


 はて?

 アランさんはアリシアの攻撃魔法の命中精度を知っているのだろうか?


 昨夜の食事の席でアリシアの攻撃魔法の命中精度を知ったブラッドリー小隊長が答える。


「アリシア様が、どうしても、と言うのでやむなくだよ。それに、ハートランド子爵からも是非同行さて欲しいと頼まれたからね」


 言葉とは裏腹に顔には困っていると書かれていた。

 それを読み取ったアランさんが聞き返す。


「アリシア様は後方待機ですよね?」


「そうお願いしたのだが……、アサクラ殿と一緒に突入をお願いすることになった」


 色々あったのだ。

 何も聞かないでくれと全身で語っている。


 全てを察したようにアランさんが俺を見た。


「アサクラ殿、頼んだぞ。ターゲットの捕獲は俺たちに任せてくれ。君はアリシア様を守ることに全力を注ぐんだ」


 間違いない。

 これはアリシアの攻撃魔法の精度について知っているな。


「ミャー」


 俺が返事をするよりも先にニケが胸元から顔をだした。


「守るものが二つか」


 子ネコを作戦現場に連れてきて大丈夫なのか? といった顔だ。


「ニケは俺のお守りです」


「まあ、験を担ぐのは戦場に立つ者なら良くある話だ」


「あたしもピーちゃんを連れてきました」


 快活に笑うアランさんにアリシアが青い小鳥を見せて言った。

 アランさんの笑い声が凍り付いた。


 ブラッドリー小隊長は背を向けたまま振り返ろうとしない。

 だが、直ぐに正気を取り戻したアランさんが俺の両肩を力強く掴んで言う。


「アサクラ殿! くれぐれもアリシア様を危険な目に遭わせないように頼んだぞ!」


「ええ、彼女を守ることに全力を注ぎます」


「ありがとうございます。でも、あたしもそれなりに強力な魔装を使えますし、いざとなったらピーちゃんもいます」


 自分のことを心配してくれるのは嬉しいが任務を最優先して欲しいとアリシアが微笑んだ。


 俺に課せられた最優先任務。

 それは君に攻撃魔法を使わせないこと、ピーちゃんの暴走を防ぐこと、なのだがそれを口にすることは出来ない。


「勿論、敵を取り逃がすようなドジを踏むつもりはないし、アリシアには指一本触れさせるつもりはない。どちらもこなしてみせるよ」


「頼もしいです」


 微笑むアリシアと向き合う俺の背後からブラッドリー小隊長とアランさんのささやき声が聞こえた。


「くれぐれも頼んだぞ」


「捕縛作戦が避難作戦になるようなことのないようにな」


 不穏なセリフに続いて、作戦開始の合図となる火球が夜空に向けて放たれた。


 ◇


「第一から第四小隊まで突入!」


 火球が打ち上げられると同時にブラッドリー小隊長の号令が夜の闇に轟く。

 その号令に従って、騎士団の各小隊と小隊ごとに割り振られた魔術師たちが一斉に動いた。


 先制攻撃の火球が正面の扉に撃ち込まれる。

 爆発音と爆煙を巻き上げて木製の扉が吹き飛んだ。


 ブラッドリー小隊長率いる第一小隊とそこに配属された魔術師たちが一斉に正面入り口から家屋へと飛び込む。

 俺とアリシアもブラッドリー小隊長に続いて正面から家屋へ侵入した。


「奇襲だ!」


「なんだ? 何があった?」


「どこのファミリーだ!」


「てめえら、応戦しろ!」


 悲鳴と怒りの声がそこかしこで上がる。

 続いて、二階からも爆発音が響き、同じように混乱して叫ぶ声と怒声が聞こえた。


 奇襲成功だ。

 辺りに狼狽と混乱の声が響き渡る。


「一人も逃がすな!」


「足だ、足を狙え! 行動不能にしろ!」


「ボスだけは殺すなよ!」


 混乱のなか、騎士たち大雑把な指示が飛び交う。


「ミャー!」


 懐に潜ませていたニケが、突然、胸元から顔をだして一点を見据えた。

 ニケの視線の先には、狼狽するでもなく一人の男が建物の奥へと向かって駆け去る姿があった。


 俺のなかで警鐘けいしょうが鳴る。

 あれは明確な目的がある動きだ。


「アリシア、廊下へ出た男を追うぞ!」


「はい!」


 振り返るとピーちゃんがいつの間にアリシアの左肩に止まっていた。




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        あとがき

■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有


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