第43話 アリシアの手料理
その日の夜。
俺とメリッサちゃん、ブラッドリー小隊長と解析の担当官の四人は、セシリアおばあさんの自宅で開かれる夕食に招待された。
背後のテーブルには家庭料理としては随分と豪勢な食事が六人分並ぶ。
「腕によりをかけて作りました」
たったいま、料理を並べ終えたアリシアが、照れながらも、どこか少しだけ得意げな様子で言った。
食べていないので味の方は分からないが、俺が泊まっているコムレフという高級宿屋の料理によりも美味しそうな盛り付けだ。
「とても美味しそうだ」
「アリシア様、盛り付けもお上手なんですね」
「ありがとうございます」
俺とメリッサちゃんの反応に、アリシアが嬉しそうに答えた。
食欲をそそる匂いに耐えて、同じ部屋に用意された作業台へと視線を戻す。
そこではセシリアおばあさんが、俺が購入した家の地下室で採取した薬品の解析を改めて行っているところだった。
「如何ですか?」
解析を行った担当官が緊張した声音で聞いた。
セシリアおばあさんの一言で自分が出した解析結果を
「お前さんの見立て通りだ。なかなかやるじゃないか」
「ありがとうございます!」
担当官の見立ては次のようなものだった。
薬品は全部で二種類。
一つは、睡眠薬。
一つは、正体不明の薬品で鎮静剤のような効果があることが判明した。
「だが、惜しい。あと少し想像力を働かせて解析していたら、違う結論がでていたじゃろうな」
詰めが甘いと指摘するセシリアおばあさんにブラッドリー小隊長が聞く。
「違う結論と申しますと?」
「この新薬じゃが、常用すると思考能力を低下させ、人を無気力にする効果があるはずじゃ」
「他人を意のままにあやつることも可能だと言うことでしょうか?」
「何じゃ、薬に心当たりでもあるのか?」
「いいえ、単なる勘です」
一瞬、顔が強ばった。
突かれたくないところを突かれたような反応だな。他の事件で類似の現象でも起きているのか……?
アリシアおばあさんは「勘のいい小僧じゃな」と言って口元を綻ばせるが、特にそれ以上追求することもなく話を続ける。
「薬の量と与える頻度によって調整すれば出来るかもしれんな」
ちょっと待てよ!
俺は二人の会話に割って入った。
「たとえば、思考力の低下と気力の減退を、考えるのが
「データを採取する期間……、そうじゃのう、半年間くらいの実験期間があれば投与する薬の量を弾きだすことも可能じゃろうな」
時間は十分だ。
これでパズルが組み合わさった。
「リリーハウスとローズハウスの職員や派遣されたシスターたちがそんな感じではありませんでしたか?」
ブラッドリー小隊長に投げかけた。
「言われてみれば……。シスターと職員にこの薬を与え、子どもたちを誘拐する隙を作ったと考えれば
「デイジーハウスの被害が極端に少なかったのは、フィオナたちが頻繁に出入りしていたから、薬品を混入させる隙がなかったからですね」
とメリッサちゃん。
「そうなると、商業ギルドの担当者と責任者だけでなく元の持ち主も疑わしくなってきますね」
商業ギルドの担当者であるエドワードさんは、まあ、無関係だろうな。
今日、ここへ来る前にタルナート王国と取り引きの多い商会についての情報を入手するためあってきたが、怪しげなところはなかったように思える。
だが、元の持ち主は違った。
ファレル子爵家の五男ではあるが、正体不明の薬品を研究していた薬師だ。
怪しいことこの上ない。
「続きは食事をしながらにしようじゃないか。せっかくの手料理が冷めてしまうよ」
セシリアおばあさんの一言で、話題の続きは夕食の席へと持ち越された。
◇
元の持ち主であるモーガン・ファレルは王都にいるため身柄の確保は後日改めてとなる。
被害者である教会と孤児院への調査も後日とした。
ブラッドリー小隊長が言うには、誘拐事件の解決と被害者の救出が最大の目的ではあるが、ジレッティ・ファミリーを壊滅させることも同じくらいに重要とのこと。
「それで、ジレッティ・ファミリーへはいつ踏み込むんだい?」
セシリアおばあさんがブラッドリー小隊長に聞いた。
「今夜です」
急だな、おい!
「聞いてませんけど?」
「極秘事項ですからね」
俺が聞くと悪びれる素振りも見せずにシレっと答えた。
俺たち二人のやり取りを面白そうに見ていたセシリアおばあさんが聞く。
「今夜の捕り物はかなり大がかりになるんじゃないのかい? いくら極秘といってもこの時間まで関係者に知らせなくて大丈夫なのかねー」
「アサクラ殿以外の協力者には既に別の場所に集まって頂いています」
魔術師と冒険者、何れも過去に何度も協力をしてもらった者のなかでも、特に信用のおける者を厳選しているのだと言った。
一応は俺も信用してもらえているようだ。
俺はブラッドリー小隊長に聞く。
「今夜のターゲットはジレッティ・ファミリーという理解でいいですか?」
「ジレッティ・ファミリーとキャロウ商会に踏み込みます」
ブラッドリー小隊長が指揮する部隊がジレッティ・ファミリーに踏み込み、別の部隊がキャロウ商会へ踏み込む予定であった。
「証拠は揃ったのかい?」
「不十分です」
セシリアおばあさんの質問にブラッドリー小隊長が答えた。
ジレッティ・ファミリーが手配書の六人をかくまっているのは確認しており、監視も貼り付かせていると言う。
だが、キャロウ商会についてはほとんど証拠が掴めていないのだという。
「ほとんど?」
「カイル・パーマーを使ってタルナート王国の商人との接触が増えています。当然、ジレッティ・ファミリーとの関係を疑われても仕方がないことです」
手配書の六人をかくまっているジレッティ・ファミリーと関係のあるカイルを出汁にして踏み込むと言うことのようだ。
「この機会にジレッティ・ファミリーには消滅してもらいます」
騎士団も無茶をするなー。
その後、食事を終えた俺たちはジレッティ・ファミリーの拠点へ踏み込むべく、スラム街へと向かうのであった。
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あとがき
■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有
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