第42話 騎士団にて
ブラッドリー小隊長との情報交換は概ね予想通りの結果に終わった。
騎士団側が掴んでいる情報をどの程度吐き出したかは分からない。しかし、こちらが掴んだ情報はそのほとんどを提供した。
伏せたのは情報ソースと孤児院に対する疑惑くらいのものだ。
「正直、この短期間でここまでの情報を集めるとは思っていませんでした」
お尋ね者となった六人の冒険者とジレッティ・ファミリーとの関係、背後にタルナート王国の元軍人か身分を偽った現役の軍事がいる。
そこまではたどり着くかも知れないと思っていたらしい。
ブラッドリー小隊長が話の途中で意味ありげにメリッサちゃんをみた。
「ゴダート商会とキャロウ商会の動きまで掴むとは私の予想の遙か上を行きましたよ」
「断っておきますが、メリッサちゃんからは何も聞いていませんよ」
タルナート王国との取り引きや往き来が急増している商会、行商人の情報が欲しいと頼んだが頑なに協力をしてもらえなかったことを話した。
「そうでしたか、それは失礼しました」
一瞬、驚きの表情を浮かべたが、素直にメリッサちゃんへの謝罪を口にした。
そして俺に聞く。
「ではゴダート商会とキャロウ商会の動きはどこで掴んだんですか? もし良ければ教えて頂けると助かります」
最も知りたいのはカイルの情報をどこで知ったかじゃないのか?
騎士団はカイルの存在までは掴んでいなかった。
キャロウ商会の動きのキーとなっているのがカイルだ。真偽も含めてカイルに関する情報の出所が気になるのは理解できる。
ギルバート・グレアムは重要な取引相手候補の一人だ。
騎士団の出方が分からない以上、彼の存在を迂闊に教えるのは避けたい。
「今朝、遅まきながらスラム街に足を運んだんですよ。ゴダート商会とキャロウ商会、カイルという謎の人物の情報はそこで仕入れました」
「確証の低い情報と言うことですか。それは残念です」
「何も掴めないよりはマシですよ。昨夜、騎士団もスラム街に足を運んだそうじゃないですか?」
「我々も忙しいのでアサクラ殿のような協力者の存在を頼もしく思います」
本当に残念そうな顔でこちらを煽ってきたブラッドリー小隊長を煽り返すが、小さく微笑んで流されてしまった。
話が途切れたところでアリシアがブラッドリー小隊長に聞く。
「先ほど話された、
「アサクラ殿が購入された屋敷の地下室で見付かった遺留品の調査が完了したのですが、念のため薬だけでもハートランド子爵に確認頂きたかったのです」
「そうですか」
胸をなでおろしたアリシアにブラッドリー小隊長が聞く。
「どうしました?」
「隣に住んでいたので曾お祖母様が疑われたのかと思ってしまって」
「ハートランド子爵が絡んでいたらあんな証拠は残さないでしょうし、今回のように何かしらの手掛かりが残っていた場合、それを追いかけた時点で我々の負けですよ」
「そ、そう、なんですか?」
珍しく困惑するアリシアにブラッドリー小隊長が「ええ、そうです」、と力強く返した。
そして、メリッサちゃんに視線を向ける。
「むしろ疑わしいのは商業ギルド――」
「え? あたしたちですか?」
「――の建物の管理をしていた担当者と責任者です」
リチャードさんとエドワードさんの二人か。
確かに疑わしいかも知れない。
俺は二人を疑うことなくエドワードさんに協力を求めたことを内心で歯がみした。
情報の裏付けが一つ欠けたか……。
こうなると、この後エドワードさんから入手する情報は疑って掛かるべきだろう。
「では、騎士団としてはこの後、商業ギルドに捜査の手を伸ばすのでしょうか?」
メリッサちゃんが不安そうに聞いた。
「そんな野暮なことはしません」
騎士団が商業ギルドに捜査で入ったら噂がたちまち広がってしまい、相手側に騎士団の動きが察知されてしまうことこそ避けたいのだと言った。
「そうですか」
「このことは内緒ですよ」
「勿論です」
ウィンクをしながら軽い口調で言うブラッドリー小隊長にメリッサちゃんが力強く答えた。
「この後、直ぐにセシリアさんのところへ行くんですか?」
セシリアおばあさんのところへ行く前にエドワードさんと接触する機会を作りたい。
情報ソースとしての信頼度は下がったが、それでもエドワードさんからの情報は欲しい。
新しい店舗兼住宅を探しているのは彼だから俺が接触する分には問題ないだろう。
「採取した薬物の解析結果をいままとめているところなので、ハートランド子爵を訪ねるのは今夜になると思います」
よし、時間が確保できる。
「そこに同席しても構いませんか?」
「勿論です。私個人としてもアサクラ殿には、是非とも協力を頂きたいと思っています」
「では、遠慮なく同席させて頂きます」
「騎士団の皆様は何名でいらっしゃるのでしょう?」
アリシアの質問にブラッドリー小隊長は、彼自身と薬物解析を行った担当官の二人で訪問する予定だと返事をした。
「では、夕食はダイチさんも含めて人数分用意しておきますね」
アリシアが期待に胸を膨らませているのが伝わってくる。
謎解きというか、調査というか、探偵の真似事にドップリとハマっている気がする。これ、今回の事件が片付いても続くんじゃないだろうか……。
「夕食を摂りながらですか……」
イケメンが情けない顔をした。
そんなことは気にもとめずアリシアが可愛らしい顔を曇らせて聞き返す。
「ご迷惑でしょうか?」
「まさか! 光栄です」
夕食を摂りながら薬物解析の結果とそれについて意見を交わすのか……。
何ともカオスな夕食なりそうだ。
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